技術士からの提言 第2回 下

2010年02月22日

ゴムタイムス社

 第2回 下 免震は人類を救えるか 世界の地震国への貢献

 それに対し地震動による構造物の崩壊は逃げ場がない。そのため、大地震を経験するたびに人類は構造物の強度を高め、充分な耐震性具備への努力を続けてきた。ところが強度アップで建設コストは上がり、建物が充分頑丈になっても振動は加わるので、建物内部の家財や人間に大きな地震応答が生じ得るということもわかってきた。
 免震技術は、地震動と構造物を切り離すことで、これらの問題にも有効な大イノベーションであった。
 この優れた免震技術を世界中で使い易くするための、産学官協同の5年越しの努力が実を結び、2005年7月ISO22762 Elastomeric seismic-protection isolatorsが発行された。本国際規格は免震ゴムの試験法、橋梁用免震ゴム、建築用免震ゴムの3部構成からなる大冊で、日本の免震ゴム技術がベースであり、筆者も原案作成に関わった。
 当初のヨーロッパ勢との主導権争いやWG各国委員の粘り強い啓蒙など、規格作成の汗と涙の物語は、WG議長の西教授(東北大)がいろいろな機会に報告されているので、ここでは触れない。あえていえば、「日本が技術で国際貢献する一つのパターン」を切り開いた、と内心自負している。
 日本の20年を超える研究とデータの蓄積を活かしたISO22762が、世界を地震の恐怖から解放する日が待たれるが、現実はなかなか難しい。
 日本の免震は、大地震時でも構造物への影響を最小限にすることを目指したため、要となる免震ゴムへの要求性能は高く、大型化・高精度・高限界が求められ、免震ゴムの製造と性能評価に高いノウハウとスキルとツールが必要となる。
 中国メーカーのHPにISO22762準拠の製品が見られるようになったが、とてもまだ世界で広く活用される規格になったとは言えない。
 では、毎年のように何万人もの命が一瞬で失われている現実はどうするのか。世界ではnon engineeredと言われる、耐震性が極めて低い住居に住まざるを得ない人々が大多数である。これらに対し、倒壊前に住民が脱出する時間を稼げるだけの簡単な耐震補強が安くできれば、人的被害を大きく軽減できる。
 各国の事情に適合した、必要最小限の耐震性を実現する技術の開発が急がれる。建築研究所と中東工科大学の、廃タイヤを用いた「ローコスト免震」についての研究もその一つだ。
 ISO22762免震で病院や防災センターを守る一方、もっと簡単で安上がりに住民を圧死から守る技術、「免死技術」も必要、というのが筆者の主張である。
何万人死亡と報道される一人ひとりには名前があり、家族があり、夢や希望を持って生きていたのだ。私達の知恵と工夫で、惨い犠牲者を根絶していかねばならない。

 ※文中のマグニチュードは全てUSGSの最新公表値

(2010年2月22日掲載)

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