ポリマーの接着と分析講座No.7 接着分析に用いる分析手法③

2021年03月02日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

シリーズ連載① ポリマーの接着と分析講座
No.7 接着分析に用いる分析手法③

ジャパン・リサーチ・ラボ代表 奥村治樹

 前々回から接着分析で用いる表面分析の代表としてXPSについて紹介したが、今回は同じ表面分析である飛行時間型二次イオン質量分析法について紹介する。接着においては、表面汚染は極めて影響が大きく、接着不良の原因の代表であると言える。一般的にはXPSが第1選択として用いられるが、XPSでは検出できない微量成分が影響していることも少なくない。そのような場合に有効となるのが、今回紹介する飛行時間型二次イオン質量分析法である。

1.1 飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)

 飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)の一種である。TOF-SIMSも含めてSIMSでは、図1に示す模式図のように、試料表面に加速された一次イオンが衝突する。その際に、カスケード衝突などの現象と共に、一部の構成成分が中性粒子、二次イオン、二次電子などとして放出される。SIMSでは、これらの内二次イオンを質量分析計で分光した後、検出器でカウントすることで分析を行う。
 ただし、TOF-SIMSにおいては、質量分析計、一次イオンソース、測定条件が異なることから、その特徴は従来型のSIMSと大きく異なる。TOF-SIMSの質量分析計は、飛行時間型(TOF型)と呼ばれ、引き出し電場によって引き出された二次イオンが、グリッドと検出器の間のドリフト空間(無電場空間)を一定速度で飛行した後検出される。そして、この時の飛行速度が、図2に示すように二次イオンの質量によって異なり、軽いものほど早く、重いものほど遅いことを利用して、検出器への到達時間の違いによって質量分析を行う。これは、図中に示す式からわかるように電場から与えられたエネルギーは全てのフラグメントイオンで一定であることから、それが運動エネルギーに変換されるとき質量によって速度が異なることを利用している。したがって、一定距離(1)の通過時間が質量によって異なり、軽いフラグメントイオンほど早く、重いフラグメントイオンほど遅く質量分析計に到達することになる。この時間を計測することでフラグメントイオンの質量を同定することができる。そして、どれほどの質量を分離検出できるかは、検出器の時間分可能と計測時間で決まることから、従来型では実現困難であった高質量分解能、高質量領域の検出が可能となっている。
 この飛行時間型質量分析の原理を用いて、図3に示すような構成の装置によって分析が行われる。なお、飛行時間型質量分析計には図3に示したもの以外に異なる構成タイプのものもある。基本的な構成は同様であるが、その原理上飛行距離が延びるほど質量分解能を上げることができるため、

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