特集 機能性フィルム・シートの最近の技術動向 高分子安定化色素ドープ液晶を用いた調光材料

2021年08月26日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特集1 機能性フィルム・シートの最近の技術動向

高分子安定化色素ドープ液晶を用いた調光材料

東京工業大学 松本浩輔、臼井鴻志、宍戸 厚

1. はじめに

 近年、安価で高出力可能なレーザーやLEDが次々と開発され、身の回りに眩しい光があふれるようになった。光源の進化は産業の発展を支えている一方で、人体や機械へ損傷を与えるなどこれまでなかった弊害も産んでいる。この課題を解決するため、眩しい光を和らげる防眩・調光材料の研究が盛んに行われている。
最近は酸化還元反応を用いて脱着色を制御するエレクトロクロミズムなどが実用化され、航空機の窓に用いられている他、光応答性分子を利用したコンタクトレンズが商品化され話題となっている。一方、従来はディスプレイに使われてきた液晶を用いた防眩・調光材料開発も進んでいる。本稿では、最近我々が開発している全光型液晶調光材料について紹介する。

2. 液晶の機能発現

2.1 液晶

 液晶は、液体の流動性と結晶の構造異方性を併せ持つ物質である。このような物質では一般に、液体の性質を引き出す「柔らかい」骨格(アルキル鎖等)と、結晶の性質につながる「硬い」骨格(連なったベンゼン環等)が一分子に共存している(図1)。これらの分子集団が、特定の条件を満たすと液体と結晶の中間である液晶の性質を発現する。

 液晶状態では、ミクロな分子が集まって自然と秩序構造を形成する。この自己組織化によって、流動性を備えるのにも関わらずマクロな視点で分子集団の「向き」を規定できる点が液晶の大きな特徴である。

2.2 液晶の配向制御

 自己組織化した液晶分子集団の向き(配向)は、外部刺激によって自在に変化させることができる。多くの汎用性液晶は、分子の長軸方向と短軸方向で屈折率・誘電率の異方性を有しているため、分子集団の配向を制御することは材料の屈折率や誘電率を制御することに繋がる(図2)。
最も一般的な配向制御手法は電界の利用である。これは液晶分子の長軸方向が印加した電界の向きに応じて配向する現象で、分子の誘電率異方性によるものである。この手法の特徴は、電圧印加のオン・オフによって可逆的に

 

全文:約6130文字

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