レゾナック、研究提案がJAXAに採択 月面での蓄熱・熱利用システム

2024年03月22日

ゴムタイムス社

 レゾナックは3月21日、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が募集した「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・領域拡大に向けたオープンイノベーション」に関する研究提案に対して、月の砂を利用した月面での蓄熱・熱利用システムに関する研究を提案し、挑戦的なアイデアとして「チャレンジ型」枠で採択されたことを発表した。同研究は、自主的な取り組みにより同社社員が提案したもので、2024年4月よりJAXAと共同研究を開始する。
 JAXAは、研究提案の一つとして、月に堆積している砂「レゴリス」を蓄熱材として活用しようという「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」を募集していた。月では、夜の気温がマイナス170℃まで下がり、昼夜の気温差が激しい過酷な期間が約2週間ずつ続くため、有人活動をするには、安定的にエネルギーを確保する必要がある。
 一方、レゴリスは、宇宙風化作用によって生成された主にガラス質の微小粒子であり、月面上に大量に存在している。これを蓄熱材として活用できれば、月面で効率的に、低コストでエネルギーを確保できる。しかし、粒子間の空隙は真空で熱が伝わらないため、レゴリス全体として熱伝導率および比熱を大きくしたり、蓄熱したレゴリスから熱を取り出したりするシステムを構築する必要がある。
 これに対し、同社は、グループで量産実績のある「レジンコーテッドサンド技術」を用いることで、熱伝導率および比熱を向上できると着想した。レゴリスの表面にポリアミドイミドなどの樹脂層をコーティングし、これを締め固める手法で、この適用可能性を確認するため、メンバーは、熱が輻射のみで伝わる真空の環境かつ約2週間ごとに昼夜の過酷な気温変化を繰り返す月面環境を想定して、熱シミュレーションを行った。その結果、熱伝導率、比熱ともに向上し、月の赤道面においてはレゴリス単体に比べ、コーティングした場合のほうが昼間の太陽熱を20倍以上蓄熱可能な見込みであるという結論を得た。従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法として、レーザ溶融によるガラス固形化などが考えられてきたが、重量物であるレーザの運搬や溶融といった製造時に多大なエネルギーが必要であることが課題であった。今回提案した手法は、月面上で、スクリュー混練のみでコーティング可能であり、実現できれば圧倒的に低エネルギーで大量製造することができる。同社は計算情報科学研究センターで高いシミュレーション技術を保有しているため、今回の蓄熱効果の検証も短期間で実現できた。このような独創性が評価され、「チャレンジ型」枠で採択された。
 今後、JAXAとの共同研究実施に向け、研究計画・体制などの調整を行った後、レゴリスを蓄熱材として成立させるための検討、また、コストと性能のバランスの取れた月面用蓄熱エネルギーシステムについて検証を行う予定。なお、JAXAとの共同研究期間は、最長1年を予定している。
 今回提案を行ったのは、同社内の自主的な活動グループであり、同社では、パーパスである「化学の力で社会を変える」を実践するために従業員が手上げ制で活動するコミュニティ「REBLUC(Resonac Blue Creators)」を、2022年に設立している。そのなかで、宇宙関連材料を通して社会に貢献したいメンバーが集まり、同プロジェクトを推進している。

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