年頭所感 石油化学工業協会 岩田圭一会長

2024年01月01日

ゴムタイムス社

 2024年の新春を迎え、謹んで新年のお慶びを申し上げますとともに、年頭にあたりご挨拶申し上げます。
 昨年を振り返りますと、我々、石油化学産業にとりましては、一昨年に引き続き多くの困難が重なった厳しい年でした。
 一点目は、世界経済全般の低迷です。インフレ率の上昇とそれに対する欧米の高金利政策は景気を冷やし、世界貿易にマイナスに作用しました。さらに米中対立の激化、ウクライナ紛争の長期化に加え、パレスチナで武力衝突が起き、これら地政学的リスクの高まりにより、先行きに更なる不透明感が出てきました。
 二点目は、日本の製造業に大きな影響を及ぼす中国経済の停滞です。ゼロコロナ政策後の回復が期待されましたが、深刻な不動産問題のほか、若年層を中心とした高失業率が消費マインドを低下させるなど、景気の回復には足踏み感が見られます。
 三点目は、円安・物価高に伴う日本の内需の低迷です。「モノ」消費を中心に、消費者の節約志向が押し下げ要因となりました。
 これら内外要因を受けて、日本のエチレンの実質稼働率は2022年8月以来2023年11月まで、16カ月連続で90%割れとなる厳しい状況となりました。
 一方で、国内経済には、インバウンドの堅調な伸びや自動車生産の回復傾向など、いくつかの明るい材料が見られ始めています。また、賃金と物価は、相互に上昇する好循環へ向けた重要な局面を迎えています。さらに、サステナブルな社会の実現をめざしたグリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの世界的潮流は、我が国における新しい産業や市場の創出、経済成長につながる好機と期待されるところです。
 当協会としては、引き続き、我が国の国民生活や、ものづくりを素材の面から支える石油化学産業の持続的発展に向けて、以下の諸課題に積極的に取り組んでいく所存です。

1.「保安・安全の確保・向上」
 石油化学産業にとりまして最重要の課題は保安・安全の確保・向上です。喫緊のテーマとして安全・安定操業のための確実な技術伝承の必要性があります。熟練技術者の減少で技術力・運転力の低下が懸念されるなか、『安全を全てに優先させる』という経営トップ層のコミットメントが求められます。コロナ禍において対面形式での開催を中断していた「保安推進会議」等の保安関連行事について、昨年、従来の充実した形式で再開しましたが、本年はこれをさらに活性化させていきたいと考えております。

2.「事業環境の基盤整備」
 事業環境の基盤整備については、税制や規制改革に関する政府への要望に加え、定期修理の課題にも引き続き取り組みたいと考えます。少子高齢化による熟練作業員の減少と新たな働き手の不足が深刻化するなか、2024年からは建設業の残業規制が厳格化されます。定期修理には多くのメンテナンス要員が必要であるため、当協会としては、実施時期の分散化及びコンビナート全体に関する全国レベルの作業効率化・最適化を図るべく対応を進めて参ります。さらに各社共通の課題である設備技術系エンジニアの採用を支援するために、機電系の学生を対象にしたキャリアセミナーの開催も継続実施していく予定です。

3.「グローバル化対応の強化」
 グローバル課題への対応としては、循環型社会やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けて業界内外の情報共有や連携支援に努めて行きたいと考えます。また昨年より再開された「アジア石油化学工業会議(APIC)」等国際会議に積極的に参画し、国際連携を図っていきます。

4.「サステナブル社会実現への対応」
 将来のサステナブル社会実現に向けた当協会の対応としては、まず、当業界としての意見を取り纏め、行政府に対して積極的に意見を発信するとともに連携を図ること。
 二つ目に石油化学産業が生み出す「環境価値」の「見える化」に取り組み、調達先・需要家・最終消費者と連携していくこと。
 三つ目に、サステナブル社会に向けた当業界の変革ストーリーをしっかりと内外に伝えていくことが重要と考えています。

 さて、石油化学製品は、コロナ禍において、医療品、包装材料への素材提供などを通して「エッセンシャルな(社会生活にとって不可欠な)製品」であることが再認識されました。一方で、石油化学産業は、地球温暖化や海洋プラスチック問題への対応など、循環型社会の構築、持続可能な開発目標への貢献が一層期待されるようになっています。省エネやプラスチック資源循環技術など我が国石油化学産業が得意としてきた技術による貢献に加えて、さらなる革新技術の開発に取り組み、また、企業や業界の枠を超えた社会実装化にも挑戦していく所存です。
 今後とも当協会への一層のご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 最後に、本年が皆様にとりまして実り多い年となりますとともに、日本経済の着実な回復・発展ならびに、関係各位の益々のご活躍とご健勝を祈念し、新年のご挨拶とさせて頂きます。

岩田圭一会長

岩田圭一会長

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