千葉大学らの研究チーム 肥料変換可能なプラスチックの機能化に成功

2023年05月02日

ゴムタイムス社

 千葉大学は4月12日、同校大学院工学研究院の青木大輔准教授、東京工業大学物質理工学院応用化学系の阿部拓海大学院生(研究当時)、大塚英幸教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の神谷岳洋准教授らの研究チームと、植物を原料とした高分子(プラスチック)の機能化手法を確立したと発表した。
 さらに、機能化したプラスチックをアンモニア水で分解することで得られる分解生成物には、植物の成長を促進する肥料としての効果があることも確認した。
同研究では、使用後の廃棄プラスチックを肥料として利用できる、次世代高分子材料の設計指針を提案している。
 研究成果は4月11日にPolymer Chemistry紙に掲載された。

 日常生活に欠かせない高分子(プラスチック)は、そのほとんどが廃棄されており、そのリサイクル率は10%以下にとどまっています。安定した高分子は、材料として有用である一方、安定しているが故にその分解は難しくなる。また、分解性に優れた高分子はリサイクル可能である一方、強度が求められる材料として用いることは困難。そのため「安定性」と「分解性」の相反する2つの特性を考慮した分子設計が循環型プラスチックの鍵となる。このような背景のもと、研究チームは、結合としての安定性と利用後の分解性を考慮してカーボネート結合に注目した。カーボネート結合はそのままでは安定している一方、身近な塩基であるアンモニアと反応し、肥料として働く尿素へと変換できる。先行研究では、この有機反応をポリイソソルビドという糖由来のポリマー(PIC)へと適用することで、分解生成物(糖由来のモノマー注4)と尿素注5)の混合物)がそのまま肥料として利用できることを明らかにした。しかし、PIC はそのままでは脆く、材料として利用するためにその機能を改善する方法(機能化手法)の開発が求められていた。

 同チームはPIC の機能化手法の確立を目指し、糖であるマンニトールから1段階で合成できる植物由来モノマーである DBM(1,3:4,6-ジ-O-ベンジリデン-D-マンニトール)をイソソルビドと共重合した。DBM は一部の水酸基が保護された状態で存在し、共重合後に脱保護注することでポリマー主鎖骨格中にマンニトール由来の水酸基を導入することができる。イソソルビトと DBM の共重合体は、汎用高分子材料よりも高い耐熱性を示し、ボロン酸注9)試薬を用いて高分子合成後に機能団を導入可能であり、PIC の課題である物性調整や新たな機能付与に利用できることが明らかとなった。さらに、得られた共重合体のアンモニア分解について評価したところ、PIC と比べてその分解が早いことがわかった。つまり、高分子の「機能化」にも「分解」にもポリマー中のマンニトール由来の水酸基が大きく寄与することが判明した。最後に、得られた共重合体の分解生成物(イソソルビド、マンニトール、尿素の混合物)を用いてシロイヌナズナの生育実験を行った。その結果、本共重合体からの分解生成物が肥料として機能することが明らかになった。

 今回合成したポリカーボネートの共重合体は、グルコース、マンニトールと言った再生可能な植物由来の糖を原料としており、バイオエンジニアリングプラスチックとして今後利用されることが期待できる。同チームはここで提案する高分子材料設計が「プラスチックの廃棄問題」と「人口増加による食料問題」を同時に解決する、革新的なシステムへと昇華されることを期待してる。

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