住友化学が東京大学らと 強相関電子材料の共同研究開始

2023年03月30日

ゴムタイムス社

 住友化学は3月28日、環境に配慮したデバイスの実用化に向けて、次世代量子デバイスの重要材料の一つとして期待さ強相関電子材料れる「強相関電子材料」の研究開発を行うため、東京大学大学院工学系研究科、東京工業大学、理化学研究所と今年4月より各大学・研究所に研究拠点を設け、共同研究を開始すると発表した。
 共同研究では研究員が複数の組織で研究開発を行うクロスアポイントメントも活用しながら、プロジェクト間の連携を進め、研究成果の最大化や早期の社会実装を目指す。
 電子同士が強く相互作用しあう物質群は「強相関電子材料」と呼ばれ、特にエレクトロニクス分野に革新をもたらす量子マテリアルとして注目を集めている。強相関電子材料は、数多くの電子が、電荷、スピン、軌道などを通じて複雑に相互作用し合い、通常の金属や半導体では考えられない高速、省電力、多機能性といった特性を有する可能性を秘めている。
 また、従来の材料系からは予想できない新しい物理現象も発現しうることが数々の研究結果により示している。
 この強相関電子材料を用いた産業利用の例として、超低消費電力で駆動可能な強誘電体メモリや磁気メモリなどの次世代メモリ、光や熱といった身近な環境にあるエネルギーを高効率で電気エネルギーに変換する環境発電デバイスなどが挙げられる。同社は、強相関電子材料を、省エネルギーと創エネルギーの双方に資する次世代の基幹技術と考え、材料および製造プロセスの開発、環境配慮型デバイスの実証研究に着手する。
 研究開発にあたっては、本分野の基礎的な研究や応用研究に実績のある東京大学、東京工業大学、理化学研究所にそれぞれ研究拠点や連携講座を設け、原理探求・材料設計からコンセプト検証まで幅広く共同で研究に取り組む。
 また、研究開発を加速させるため、同社から各拠点に研究員を派遣し、相互の研究開発の連携を図るほか、長年培ってきた無機材料の機能設計技術やデバイス設計技術、分析・物性評価技術などの広範なコア技術を融合することで、早期の社会実装を目指す。
 東京大学の社会連携講座名は、「新しい物理現象を用いた次世代環境配慮デバイスの開発」、代表教員は、東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻齊藤英治教授、設置期間は、2023年4月1 日から2026年3月31日の3ヵ年となる。
 研究内容は、新奇な物理現象を開拓し、その原理を幅広く検証することで、これまでにない原理で動作する革新的な熱電変換デバイスや、超低消費電力で駆動しうる電流型誘電メモリなどに向けた材料開発、実証およびデバイス開発に取り組む。具体的には、一部の強相関電子材料において結晶対称性の低下がもたらす新奇な物性に着目し、深い専門性とノウハウを有する東京大学と協働のうえ、現象の開拓、検証、および実用化を目指して取り組む。
 東京工業大学の協働研究拠点名称は、「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」、拠点長は、東京工業大学 科学技術創成研究院 曽根正人教授、副拠点長は、同社経営企画室 岡本敏氏(研究企画統括)、設置期間は、2023年4月1日から2026年3月31日の3ヵ年となる。
 研究内容は、強相関電子系の一つで、一つの物質の中で強磁性と強誘電性が共存する「マルチフェロイック物質」を用いて、超低消費電力で駆動可能な電圧駆動型磁気メモリデバイスの開発に取り組む。材料設計のみならずプロセス設計や信頼性評価にも精通する東京工業大学の幅広い専門分野に加え、同大学が地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)と進める共同研究成果にも立脚しつつ、東京工業大学オープンイノベーション機構の支援のもと「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」を設置し、産学連携を通じて、いち早い社会実装を目指す。
 理化学研究所の「産業界との融合的連携研究制度」によるチーム名称は、「強相関材料環境デバイス 研究チーム」、チームリーダーは、同社経営企画室 岡本敏 氏(研究企画統括)、副チームリーダーは、理化学研究所 創発物性科学研究センター強相関物質研究グループ 田口康二郎氏(グループディレクター)、創発光物性研究チーム 小川直毅氏(チームリーダー)設置期間は、2023年4月1日から2028年3月31日の5ヶ年となる。
 研究内容としては、近年、理化学研究所によってその理論解釈と実験実証が急速に進展した「バルク光起電力」と呼ばれる現象に注目し、エネルギー散逸が少ない高効率の新規光電変換デバイス(太陽電池、光センサーなど)に向けた材料開発、実証およびデバイス開発に取り組む。
 加えて、超省電力で駆動可能な新原理の電圧駆動型磁気メモリデバイスに寄与しうる「マルチフェロイック物質」の材料創成と原理探求にも取り組む。深い専門性とノウハウを有し、これまで数々の新しい物理現象を提唱・実証してきた理化学研究所と協働し、強相関材料を用いた環境配慮デバイスの実用化を目指した共同研究を実施する。

強相関電子材料のイメージ

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