発泡スチロール特集  EPSの優れた特性で地球環境をまもる

2022年09月26日

ゴムタイムス社

有効利用率は過去最高の92% 

省資源性に優れたEPS

「断熱性」「緩衝性」の2大特性に加え、「軽量性」「加工性」に優れかつ「耐久性」も高く、様々な分野に使われている発泡スチロール(EPS)。発泡スチロールの業界団体である発泡スチロール協会(JEPSA、柏原正人会長)によると、発泡スチロールは1950年にドイツで開発され、日本では1959年から国産で製造が開始され、国内では60年を超える歴史を有している。
 EPSの原料は、発泡剤が入った直径1mm程度のポリスチレンの粒(ビーズ)。EPSはこのビーズを50倍(50倍以外の倍率もある)に膨らませて作るため、製品全体(体積)の98%は空気で構成されている。石油由来の原料であるビーズは2%しか使われていない。このため、EPSは空気(98%)が主成分のエコ素材であり、環境に配慮した素材として日常生活に定着している。
 また、単一素材でできているEPSは、熱を加えるだけで再生原料(インゴット・ペレット化)に生まれ変わることから、リサイクル性にも優れている。使用済みとなった発泡スチロールは、プラスチック製品などに再利用する「マテリアルリサイクル」やガス化や発電焼却や熱利用焼却などに利用する「エネルギーリカバリー」などのさまざまな方法で有効活用されている。
 JEPSAによると、2021年の使用済みEPSの有効利用率は92・0%と前年の90・8%を上回り、過去最高を更新した。内訳は、マテリアルリサイクル率が53・8%(ケミカルリサイクル率0・8%を含む)と半数強にのぼる。
 また、エネルギー・リカバリー率が38・2%、未利用の単純焼却、埋め立てなどは8・0%となっている。
 有効利用率の推移をみると、2007年に80・3%だったのが、2013年に88・3%へ上昇。2015年に90・2%と9割台に乗った後は、2021年まで6年連続で有効利用率9割を達成している。「EPSはプラスチックのなかでもPETボトルと並んでトップクラスの有効利用率を維持している」(JEPSA)と強調する。
 さらに、近年では「プラスチック資源循環戦略」や「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」に加え、2022年4月からは「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行され、プラスチックに関する環境問題が社会で関心を集めている。そうした環境下、JEPSAでは地球環境を守る「持続可能な社会」実現に向けて、プラスチック資源循環戦略」や「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」にも積極的に参加している。今後はこうした取組みを通じ、「EPSを資源として有効利用率の向上(100%)を目指す」(JEPSA)としている。

EPS用途は容器が半数強

 EPSの主な用途としては、生鮮食品の輸送容器や家電OA機器などの梱包材や緩衝材、建築用断熱材など幅広い用途で使われている。
 用途別のシェアをみると、1970年代後半までは緩衝材用途が出荷量のトップを占めていた。しかし、家電メーカーが海外に生産拠点をシフトしたこと、他素材の緩衝・包装材との競合激化などで、トップの座を水産部門に明け渡している。
 なお、2021年の用途別の出荷量は、容器が6万5671tで構成比で51・4%と全体の半数強を占める。次いで緩衝材・部材・その他が4万1632tで同32・6%、建材・土木が2万398tで同16・0%となった。

 JEPSAによると、2021年の輸入品を含めた国内の発泡スチロールの出荷実績は12万7700tで前年比4・2%増となった。このうち、国産原料は11万9625tで同5・2%増と2014年以来7年ぶりに前年実績を上回った。部門別の出荷実績は、水産分野(4万8272tで前年比0・4%増)や農業分野(1万1746tで同3・4%増)、弱電分野(1万6159tで同11・5%増)、建材・土木分野(2万398tで同2・9%増)、その他分野(2万3050tで同15・6%増)となり、すべての分野が前年実績を上回った。
 2021年の各分野の需要動向をみると、水産分野はイカやサンマなどの不漁に加えて、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出を受け、飲食業向けの需要は十分な回復に至らなかった。農業分野は、輸送容器分野の需要が堅調に推移した。
 弱電分野は、半導体部品など供給不安による生産減少の影響を受けた。その一方で、空気清浄機や白物家電向けの需要が堅調に伸びた。
 次に、建材・土木分野は新型コロナウイルス感染拡大に伴い住宅設備製品の供給が切迫したことやウッドショックが起きたものの、前年実績を若干上回った。
 その他分野では、「巣ごもり需要の高まりを背景にビーズクッション向けの需要が伸びたほか、宅配を含めた物流容器・資材などの新しい用途の需要が好調な伸びを示した」(JEPSA)としている。
 さらに、EPSは低温で安定した輸送が可能な特徴を持つ。その特徴を生かし、これまで薬品、検査診断キットなどの輸送容器として使われてきた。「最近は新型コロナワクチンの輸送容器として日本を含むグローバルでEPSの採用が広がっている」(JEPSA)とした。
 EPSの新規用途の需要創出や拡大に向けた取組みにも力を入れている。建材分野では「窓断熱改修工法」を新たに開発した。EPSの光透過性、光反射性を利用し、窓用断熱材への活用を進めている。その一環として、昨年は窓断熱改修工法の断熱性を確かめるべく、福井県畜産試験場の福地鶏(福井県産ブランド地鶏)の育雛室の窓を使い、同工法にてテスト施工を行った。その結果、福地鶏の冬季の育成率(生存率)は1~3%向上するとともに、福地鶏の体重増加(期間平均5%)が確認できた。JEPSAでは今回の検証データを参考に、窓断熱改修工法の採用を各方面に働きかけていくとしている。
 建材分野では、EPS建材推進委員会が中心役となり、「新EPS床断熱工法」や「木外装材使用のEPS付加断熱工法」といった工法の普及も進めている。住宅業界では、高断熱仕様の住宅が増えている。高断熱性への需要が高まるなか、EPS断熱建材の需要は着実に伸長している。

新規用途の創出や拡大に力

 発泡スチロール協会(JEPSA)はこのほど、記者発表会を開催し、発泡スチロール業界の概略や22年度の活動計画などの説明を行った。
 同協会は5月の総会で役員改選を行い、積水化成品工業の柏原正人代表取締役社長が新たに会長に就任した。
 冒頭、柏原会長は「昨年は、新型コロナウイルス感染拡大のなか、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出され、プラスチック業界も大きな影響があった。またカーボンニュートラルの取り組みが進み、4月には『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律』が施行され、プラスチックに係る環境問題が大きな関心を集めている」とプラスチック業界について触れた。その上で、「地球を守る『持続可能な社会』の実現に向けて、発泡スチロールの特性などの理解を深め、高いリサイクル率を維持し、資源としての有効利用率100%を目指したい」と抱負を述べた。
 21年度の使用済み発泡スチロール(EPS)の有効利用率は、前年の90・8%を上回る92・0%となり、過去最高を記録した。内訳では、マテリアル・リサイクル率が53・8%、エネルギー・リカバリー率が38・2%、未利用の単純焼却や埋め立て等は8・0%となった。同協会はガイドラインの作成やマテリアルリサイクル活動の広報、EPS設備助成の拡充などを行っていくことで、EPSの有効利用率100%を目指していく。
 21年度の輸入品を含めた国内のEPS出荷実績では、12万7700tで前年比4・2%増となり、国産原料は11万9625tで同5・2%増となった。14年以来7年ぶりに対前年プラスとなった。分野別にみると、水産部門は4万8272tで同0・4%増、農業部門は1万1746tで同3・4%増、弱電部門は1万6159tで同11・5%増、建材・土木部門は2万398tで同2・9%増、その他部門は2万3050tで同15・6%増となり、全分野でプラスとなった。
 最近の動向として、発泡スチロールは低温安定輸送可能な特長を生かし、薬品、検査診断キット等の輸送容器として採用されていたが、新型コロナワクチンの輸送容器としてもグローバルに採用され始めたという報告があり、今後もEPSの優れた特性を活かした用途の創出や拡大をしていくとした。
 またEPSの需要拡大に向けた取り組みも進めている。新規用途として、窓断熱改修工法を開発。EPSの光透過性や光反射性を利用して窓用断熱材として活用し、福井県の畜産試験場でテスト施工をした。
 22年度の活動計画については、重点実施項目として「発泡スチロールの優れた特性を活かした容器・包装・物流資材の需要拡大」、「耐熱性、耐久性、軽量性を活かし長期にわたり使用される、断熱建材、土木資材、家電・住宅設備・自動車等の工業部材、生活分野の市場拡大」、「環境負荷低減や資源消費抑制による社会貢献」、「発泡スチロール業界の健全な発展のための環境整備」の4つを挙げた。

柏原新会長

JEPSAが22年度活動方針を発表

 JEPSAは1991年に発泡スチロール再資源化協会として設立。2010年6月に改組し、名称を発泡スチロール協会とした。会員数(正会員)は4社(アキレス、カネカ、積水化成品工業、JSP)と1団体(日本フォームスチレン工業組合)。賛助会員は6社(EPS減容器製造・販売会社)となっている。
 JEPSAでは、EPSの需要拡大、創出を大きな活動の柱に据える。2021年度は「エコプロ2021」への出展や児童・学生に向けたWEB動画を活用したWEB環境学習の試行、さらにはJEPSA30周年誌の発行などを行い、発泡スチロールの正しい理解と普及に向けPRした。
 そして今年度(2022年度)の活動方針は「発泡スチロールの優れた特性で地球環境を守ります。」をビジョンに掲げ、22年度は①「EPSの優れた特性を活かし、容器・包装・物流資材の需要拡大」②「断熱性、耐久性、軽量性を活かし長期にわたり使用される、断熱建材、土木資材、家電・住宅設備、自動車など工業部材、生活分野の市場拡大」③「環境負荷低減や資源消費抑制による社会貢献」、④「発泡スチロール業界の健全な発展のための環境整備」を重点項目として挙げた。このうち、②ではJEPSAでは長期使用ができる発泡スチロール製品の利用を増やすことにより、「持続可能な社会」実現に貢献できることを「SDGs」を意識しPRする。
 ③では環境負荷低減や資源消費抑制による社会貢献に向けた活動を実施していく。その一環として、JEPSAは優れた環境特性による資源循環および資源有効利用率向上や適正回収・処理のPRやプラスチックに係る資源循環の促進を行う。
 うち、プラスチックの資源循環の促進に関する項目では、環境設計ガイドラインの作成やマテリアル・ケミカルリサイクルの情報展開・拡充、助成制度の拡充を挙げる。 助成制度の拡充では「これまで会員以外には、発泡スチロール容器が集まる卸売市場を対象に処理設備の助成を実施してきたが、さらなるリサイクル向上に向けて、2022年度からは卸売市場以外にも助成対象となる制度に改訂した」(JEPSA)。
 具体的には「プラ資源循環促進法のスキームを活用してEPS再資源化を推進する企業や団体」、「海洋プラスチックごみ削減に資する活動を行う企業、団体」も対象とした。「助成対象を拡充することで、さらなる資源循環を促進して社会貢献に寄与していきたい」(JEPSA)と語る。

プラタイムス紙面4面をご覧ください

https://www.gomutimes.co.jp/pdf-pla/32plaYXbi.pdf

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