ポリマーの接着と分析講座No.4 接着不良・剥離解析の進め方

2021年02月22日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

シリーズ連載① ポリマーの接着と分析講座
No.4 
接着不良・剥離解析の進め方

ジャパン・リサーチ・ラボ代表 奥村治樹

はじめに
 前回は接着解析や剥離分析におけるパターン分類の考え方を中心に述べたが、今回は実際の分析、解析プロセスフローの考え方について解説する。
 解析プロセスを考える場合に、最も重要で、まず考えなければいけないことは、「目的」、すなわちゴールの設定である。どういう状態になりたいのか、それによって何を実現したいのかということをまず明確にしなければならない。にもかかわらず、少なからず「どんな分析を使用するか」、「どの手法を使おうか」といった目的ではなく手段が先に考えられている。このような状態になると何が起きるか言えば、手段と目的の混同が起きるのである。

1.解決アプローチ
 次に、剥離解析を例として、実際の分析・解析プロセスについてもう少し詳細にみていく(図1)。まず、行わなければならないことは、すでに述べた通り対象とする試料の状態、特に剥離状態の観察をすることである。どこが剥離しているのか、どのような剥離状態なのか、色や形状、分布など何か特徴的なことが無いかなどを中心に観察を行う。ただし、ここでは後に続く機器分析のことを念頭に置いて、できる限り試料にダメージを与えない、影響を与えないような観察手段を優先しなければならない。そして、次に観察によって得られた情報を元にして、剥離源を想定して、その検証ができる分析、評価を選定して実行する。そこで、異物や異成分などの何らかの原因物が想定されるようであれば、微小部分析なども視野に入れつつ、その特定方法を検討して実行することになる。
 これらの基本的な初期情報を得ながら、それらも元にして、剥離メカニズムについて様々な可能性を検討する。すなわち、本格的な仮説の構築を行う。そして、その中で剥離のトリガーとなったものも同時に考えなければならない。トリガーには様々なものが考えられるが、一般的なものとしては、光、熱、水分等が挙げられる。ここでトリガーについて検討する理由は、最終目的である対策を検討するために必要不可欠な情報だからである。
 そして、基礎的初期情報と仮説という2つの情報を組み合わせて、原因を特定して、対策を検討することになる。ただし、ここではまだ予測でしかない部分もあるので、対策に対してモデル実験等を通じて検証を行って、その対策に確かに期待した通りの効果があるかを確認することも必要である。

2.代表的機器分析と用途
 第1ステップとしての観察が終わり、初期情報が得られた後、機器分析に移行していくことになる。図2は、機器分析ステップの1つである組成分析(ここでは元素組成という意味)について整理したものである。まず、無機系の組成分析においては、XRF(蛍光X線分析)やXPS(X線光電子分光法)、EDS(エネルギー分散型X線分析)等の分析手法がその候補として挙げられる。個々の手法の原理等の詳細な解説はここでは割愛するが、例えば、XRFの特徴としてはまず非破壊のバルク分析手法であることが挙げられる。この他にも、XPSやAES等とは異なって大気雰囲気で測定可能であることも分析自由度という点からは重要なものとして挙げられる。ただし、重元素の感度は高いが、ナトリウム等の軽元素は感度的に劣る。XPS、AES(オージェ電子分光法)、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)はいわゆる表面分析手法に分類されるものであり、試料表面から数nm程度の深さまでの極表面領域の情報を得られるという特徴を持っている。それぞれの主な特徴は、XPSは組成だけでなく化学構造に関する情報も得ることができ、AESは1μm程度またはそれ以下の微小領域の情報を得ることができる。TOF-SIMSは、XPSやAESが分光分析であるのに対して、質量分析という点で異なる。そのため、後者2つが一定の定量性を有しているのに対して、TOF-SIMSは定量分析を苦手としている。しかし、質量分析であるがゆえに感度は両者とは比較にならないレベルで高いという特徴を有している。その高い感度で複雑な化学構造、官能基情報を得ることができることから、汚染分析や微量添加剤の分析などで有効な手法と言える。EDSは通常単独で用いられるものではなく、SEM等との併用で用いられるものである。そのため、形態と元素情報の両方を同時に得ることができる。ただし、これはAESでも可能である。ICP(誘導結合プラズマ分析)は、検出器の違いによって発光分析と質量分析の2種があるバルク分析手法であり、その特徴はppbを超える極めて高い感度であることが挙げられる。なお、感度の優劣に関しては質量分析の方が高い。
 これらの無機組成分析に対して、有機組成に関しては図2に挙げた手法群から選択するのが一般的である。XPS、AES、TOF-SIMSについてはすでに説明した通りの特徴を持っている。CHNO分析はいわゆる元素分析と呼ばれているものであり、当然のことながらバルク分析となる。
 マイナーなものも含めればこれら以外にもあるが、接着分析という観点ではこれらが

 

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