現場に役立つゴムの試験機入門講座 第10回 低温特性の試験 JIS K6261-その2

2021年08月05日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

シリーズ連載① 現場に役立つゴムの試験機入門講座
第10回 低温特性の試験 JIS K6261-その2

蓮見―RCT代表 蓮見正武

はじめに

 スペースシャトルチャレンジャー号の事故はフッ素ゴム製シールが0℃前後の低温で弾力性を失いシール性能が低下したことによって起こりました。低温衝撃ぜい化試験は最も普及した低温試験ですが[割れた/割れない]という判定基準しかなく、低温下で連続的に変化するゴムの状態を知ることは出来ません。そのような試験としてJIS K6261には低温ねじり試験、低温弾性回復試験が規定されています。今回はJIS K6261およびその他の低温試験について解説します。

低温ねじり試験 JIS K6261-3 ISO 1432

 ゲーマンねじり試験として知られ、旧JIS K6301-1975から採用されていますが、ゴムメーカーのカタログデーターや日本ゴム協会誌論文などでお目にかかることは少なく、国内ではあまり使われていないように思います。ゲーマン(Gehman)は開発者の名前と思われ、米国では1960年代には既に一般的に行われていたそうですが、詳しいことは分かりません。
 ゲーマンねじり試験は図1に示すようにバネ定数一定のねじりワイヤーとゴム試験片が連結されていて、ワイヤー上部のつまみを180゜ねじるとワイヤーの剛性とゴムの剛性がバランスする角度までゴムがねじれます。そこで、ゴムの部分を冷却してガラス状態(Tg)にしておいて、徐々に温度を上げていくと、始めはゴムの剛性が大きいので殆どねじれませんが、温度上昇に伴ってゴムは軟らかくなってねじれるようになり、図2のような曲線が得られます。
 ワイヤーのバネ定数とねじれ角と試験片の寸法から次の式でゴムのねじりモジュラスが求まります。 
 ねじりモジュラスが室温時の2倍、5倍、10倍、100倍になる温度をt2、t5、t10、t100とします。測定温度ごとにねじりモジュラスを計算するのは面倒なので、JISでは室温でのねじり角とそれに対応してモジュラスが2倍、5倍、10倍、100倍となる角度がTableとなっているので図2の曲線からその角度に相当する温度を読み取れば容易です。t2、t5、t10、t100はつぎのような意味を持っています。

 t2:この温度付近までは室温と同様なゴム弾性を  維持しているとみなせる。
 t5,t10:この温度領域ではわずかな温度の違いで  剛性率が著しく変化し、ゴム弾性が低下する。
 t100:この温度ではゴムはほぼ凍結しており、ガラ  ス状態である。
 
 このようにt2、t5、t10、t100は試験したゴムの低温における弾性率変化を端的に表している指標と言えます。室温~ガラス転移点での引張試験を連続的に行って弾性率変化を求めるのは大変な労力を必要としますが、ゲーマンねじり試験を用いれば低温でのゴムの弾性率を数値として表せるということがゲーマンねじり試験の特長と言えるでしょう。なお、直線部分をねじれ角0に外挿するとTgが求められます。
 JIS K6261-3ではワイヤーとして表1に示す3種類のワイヤーを規定していますが2.8mN・mのものが標準です。

 ゲーマンねじり試験の方法は、長さ(40±2.5mm)、幅(3.0±0.2mm)、厚さ(2.0±0.2mm)の短冊状試験片をつかみ間距離を25±3mmとしてたるまないように取り付けます。
 室温(23±2℃)でつまみを180゜回転させ、10秒後のねじれ角度を記録します。次いで予め予想される凍結温度以下に温度調節した低温槽に入れ、15分間冷却したのちつまみを180゜回転し10秒後の角度を読み取ります。
 低温槽の温度を5℃間隔で段階的に上げ、各温度で5分間保持したのち同様にねじれ角を測定し、室温(23℃)でのねじれ角との差が10゜以内になるまで測定を繰り返します。
 図3に示すように通常4本~6本の試験片が取り付けられ、手動または自動で位置を変えながら測定します。
 低温槽はエタノール+ドライアイス浴が一般的でしたが、最近は冷凍機を内蔵して自動制御できる機種が主流になりつつあります。ねじり角度の測定も角度センサを使って自動化され、測定結果の記録、グラフ化、t2~t100の計算も人手を介さずに行われるようになり効率化されました。一例を図4に示します。
 ゲーマンねじり試験はねじりモジュラスという物性(弾性率)の変化を直接表している点で分かりやすく優れている試験です。

低温弾性回復試験 JIS K6261-4 ISO 2921

 一般にはTemperature Retraction Testを略してTR試験と呼ばれています。
 Du Pont社のSvietlicが1951年に開発した試験方法で1955年にASTM D1329に採用されました。
 旧JIS K6301には採用されず、新JIS K6261には1997年版から採用されました。
 TR試験は、予め伸長した試験片を凍結温度以下に冷却しておき、温度を上げていくとゴム温度が上昇するにつれて弾性が回復して収縮します。そこで温度と収縮率をグラフ化すると図5の曲線が得られます。このグラフは前述のゲーマンねじり試験で得られるグラフ(図2)と非常に似ていますが、ゲーマンねじり試験のようにモジュラス値を表してはいません。
 グラフから収縮率が10%、30%、50%、70%となる温度を読取りTR10、TR30、TR50、TR70と呼びます。
 TR10~TR70の意味については
 TR10:低温衝撃ぜい化温度と関係がある。
 TR50:加硫が進んでいるほどTR50が低下するので加硫の状態を管理するのに利用される。
 TR70:低温圧縮永久ひずみと関連する。
 TR10とTR70の差:大きいほど結晶化しやすい傾向にある。
と言われています。

 TR試験の試験片は図6のI字形状で長さは100mmまたは50mmで伸びが小さい試料の場合は100mmを、伸びが大きい試料の場合は50mmを使うことになっています。
 試験装置は通常試験片6本を取り付けられ、試験片の収縮量を測定するための目盛板がついています。TR試験装置の例を図7に示します。
 試験片を伸長した状態でつかみ具を固定しますが、伸長率は次のように決められています。
 1)‌試料の結晶化傾向を評価しない場合は50%とする。
 2)‌試料の結晶化傾向を評価する場合は通常250%とするが、250%伸びない場合は切断伸びの1/2とし、切断伸びが600%を超える場合は350%とする。
 試験片を取り付けた試験装置を-70℃に調節した低温槽に入れて10分間冷却したのちつかみ具の固定を解除し自由に収縮できるようにします。毎分1℃の速度で温度を上昇し、2分間隔で試験片の平行部分の長さを読み取り、収縮率が75%になるまで測定を続けます。収縮率rは次式によって表されます。

 得られた収縮率と温度をグラフ化し、収縮率が10%、30%、50%、70%となる温度を読み取ります。ゲーマンねじり同様に直線部分を外挿し収縮率0の点がTgを表します。
 TR試験の問題点のひとつは伸長率が収縮速度に影響することです。図8にSBRとNRにおける伸長率の影響を示しますが、SBRの場合は伸長率50%と200%の比較では高伸長率の200%のほうが早く収縮します。TR10温度はそれほどの差ではありませんが、TR70温度は伸長率200%は50%より10℃低温になります。一方、NRの場合は逆に低伸長率(100%以下)に比べて高伸長率(200%以上)は収縮速度が非常に遅くなり、伸長率50%に比べ200%では30℃高くなりました。NRは伸長結晶化によって分子の動きが少なくなるからです。結晶性ゴムの場合TR70とTR10の差が大きいものほど結晶化傾向が大きいと言われています。
 ゲーマンねじり試験では試験片は伸長されない状態で冷却されるのでこのような結晶化の影響は受けません。
TR試験装置についても最近は冷凍装置を内蔵して温度調節、収縮率の読取りを自動化した機種が作られています。図9に一例を示します。
 O-リングやパッキンではTR10温度が実用上の使用限界温度の目安として使われており、製品カタログに記載されていることがあります。TR試験はゲーマンねじり試験のようにゴムの弾性率を直接表すものではなく、ゴム状態になった部分がガラス状態の抵抗に打ち勝って室温での状態に戻ろうとするので回復に時間がかかるという要素もあり、ゲーマンねじり試験よりも複雑な試験とも言えます。

 

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