特設記事2 ゴム製品の耐熱老化性と耐疲労劣化性の両立

2021年03月02日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特設記事2 ゴム薬品の配合技術を理解する耐老化性向上のポイント

ゴム製品の耐熱老化性と耐疲労劣化性の両立

ゴム薬品コンサルタント 太智重光

1.はじめに

 市場に出回っているゴム製品の多くは、各種加硫用薬剤を用いて加硫することでゴムに三次元構造を形成させ、弾性体としての性質を付与している。加硫は、ゴム分子中の反応性に富んだ加硫点と加硫剤との化学反応であるが、加硫を効果的に完了するため、酸化亜鉛等の金属酸化物及び加硫促進剤等を併用することも多く、これらを総称して加硫用薬剤と呼ぶ。
 現在、実用に供せられている加硫剤としては粉末硫黄、硫黄供与剤(サルファードナー)、有機過酸化物、金属酸化物、多官能アミン類、キノンジオキシム等があり、加硫点の反応性に応じて使い分けられている1)。
 加硫ゴムの特性は加硫剤の影響を大きく受け、硫黄加硫物は、高強度で、耐疲労劣化性と耐屈曲き裂性に優れているが、耐熱老化性(注:耐熱性と耐熱酸化性の総称)が劣り、圧縮永久歪も大きい。これに対し過酸化物加硫物は、耐熱老化性に優れているが、強度が低く、耐疲労劣化性も劣り、老化防止剤による加硫阻害を受け易い。また金属酸化物を用いたイオン加硫物は、高強度であるが、圧縮永久歪が大きく、キノイド加硫物は耐熱老化性が良好で、誘電率や電気抵抗等の電気特性が優れているが、スコーチしやすい欠点を有することが知られている2)。
 加硫用薬剤の選定にあたっては、加硫工程でのスコーチ性を確保するのか、あるいは高速加硫を実現するのか、また加硫物の強度特性を重視するのか、あるいは加硫物の耐熱老化性を向上させるのかによって重視する特性も異なり、ひいては加硫用薬剤の選定にも大きく影響する。
 本誌では、硫黄加硫の最大の特徴である優れた耐疲労劣化性を維持して、耐熱老化性も向上し得る配合処方について述べる。

2.硫黄加硫物の配合処方と加硫物の特性

 円滑な硫黄加硫の実施に際しては、硫黄(加硫剤)、加硫促進剤および酸化亜鉛が必須成分で、さらにステアリン酸を添加することで、より円滑に加硫を進行させることができる。
 硫黄加硫物の耐老化性は、配合される硫黄と加硫促進剤の配合比率で大きく変わる。硫黄加硫の配合処方としては、硫黄を多く加硫促進剤を少なくした通常加硫(例…硫黄:2.5、MBS:0.6)、硫黄を少なく加硫促進剤を多くしたEV加硫(例…硫黄:0.56、MBS:5.6)、通常加硫とEV加硫の中間の配合比率のセミEV加硫(例…硫黄:1.4、MBS:1.4)、硫黄を用いずTMTD等のサルファードナーを用いた無硫黄加硫(例…TMTD:5.5)が挙げられる3)。表1には、各種加硫方式で得られたSBR硫黄加硫物の耐熱酸化性と耐疲労劣化性を示す4)5)。加硫促進剤の種類に関係なく、加硫物の100℃での耐熱酸化性は、無硫黄加硫>EV加硫>通常加硫の順序を示すが、屈曲き裂試験で評価された加硫物の耐疲労劣化性は、通常加硫>EV加硫>無硫黄加硫の順序に良好になることがわかる。これは通常加硫では、結合エネルギー6)7)が低いポリスルフィド鎖(36.6kcal/mo)が主に生成されるのに対し、EV加硫では、結合エネルギーの高いジスルフィド鎖(64 kcal/mol)およびモノスルフィド鎖(68 kcal/mo)で加硫物が構成され、無硫黄加硫ではモノスルフィド鎖が主に形成されるためと考えられている3)。このように単に硫黄と加硫促進剤の配合比率を変えただけでは、加硫物の耐熱老化性と耐疲労劣化性を同時に向上させることは難しいが、配合処方の工夫により硫黄加硫物の耐熱老化性と耐疲労劣化性の両立は可能となる。以下、具体的配合処方について紹介する。

3.硫黄加硫物の耐熱老化性と耐疲労劣化性の両立

3.1 異種加硫系の併用による両立
 通常加硫物は主にポリスルフィド鎖で構成されているため、耐疲労劣化性は良好となるが、長期高温下では、耐熱性の目安ともなる各種加硫物の物性が低下する加硫戻り(リバージョン)が発生し、また加硫物の耐熱酸

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