水添スチレン系エラストマーHYBRAR™ SV-series

2021年02月25日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特集1 多用化するエラストマーの用途展開と特徴

水添スチレン系エラストマーHYBRAR™ SV-series

クラレ㈱ 千田泰史

1.はじめに

 近年、燃費向上を目的に自動車の軽量化が進められた結果、車外やエンジンからの振動・騒音が大きくなり、車内環境の悪化をもたらした。また自動車の電動化は、主な騒音源の一つであるエンジン音の低減につながったが、その結果ロードノイズ、風切り音、ギアノイズなど、これまでエンジン音で消されていた様々な振動・騒音が目立つようになってきた。このように、自動車の振動・騒音低減ニーズはますます高まり、さらに多様化している。この対策として注目されているのが、重量を大きく増すことなく効果的に振動・騒音を低減する制振材料である。
 自動車の主な車内騒音の種類と周波数領域について表1に示す。車内騒音は、20~20,000Hzという広い周波数領域で存在するため、理想的には広い周波数領域で高い制振性を示す制振材料が求められる。しかし、制振性が高くなる温度・周波数は制振材料のガラス転移温度(Tg)によって決まるため、全ての温度・周波数をカバーすることは難しい。そこで実際には、特に抑えたい振動・騒音の温度・周波数に制振性のピークを持つ制振材料を用いる方法や、複数の制振材料を併用して広い温度・周波数領域で制振性を発現させる方法がとられる。これまで、室温や低温領域で制振性を発現できる材料は広く用いられているが、室温より高い温度領域で高い制振性を発現する材料の例は少ない。本稿で紹介するHYBRAR™ SV-seriesは、従来困難であった高温条件での高い制振性を達成できる解決策となると期待できる。

2.制振性スチレン系エラストマーHYBRAR™の構造と特性

 スチレン系エラストマーは熱可塑性エラストマー(TPE)の一種であり、ハードブロックであるポリスチレンと、ソフトブロックであるポリジエンからなるブロックコポリマーである。ポリスチレンブロックのガラス転移温度(Tg)以下では、ポリスチレンブロックが物理的な架橋を形成することでゴム弾性が発現し、Tg以上の温度では可塑化して加工が可能になる。特に、ソフトブロックが水素添加されたものは水添スチレン系ブロックコポリマー(HSBC)と呼ばれ、引張強度が高く、耐熱性や耐候性、耐オゾン性に優れるほか、ポリオレフィン樹脂との相容性が高いという特性を有する(図1)。HSBCは、水添ジエンブロックの構造の違いにより分類され、代表的なものにSEBS、SEPS、およびSEEPSがある。
 当社製品のHYBRAR™は、ポリジエンブロックまたは水添ポリジエンブロックのビニル構造(1, 2-結合および3, 4-結合)の割合が高く、一般的なスチレン系エラストマーと比べてガラス転移温度(Tg)が高い。これによって、室温近傍で高い制振性を示す(図2、表2) 2)~4)。また、ポリオレフィンやポリスチレン、ABS、EVA等の他の樹脂やエンジニアリングプラスチック、ゴム材料にHYBRAR™をブレンドすることで、それらの制振性を高めることができる。

3.HYBRAR™ SV-seriesの特徴

 既存のHYBRAR™で最も高いTg (= 8 ℃)を有する5127は、室温近傍で高い制振性を発現するが、未水添グレードであり、水添グレードと比較すると耐熱性・耐候性に劣っている(表2)。特に耐熱性に関しては、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックとの高温での

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