理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームディレクター、竹内直志特別研究員(研究当時)、ダイセルの島本周フェローらの共同研究グループは、5月16日、消化管内で酢酸を特異的に増加させるセルロース試料である水溶性酢酸セルロース(WSCA)が腸内細菌に作用することで消化管からの糖質吸収を抑え、肥満を改善することを明らかにしたと発表した。
同研究成果は、プレバイオティクスに基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される。
今回、共同研究グループは、WSCAをマウスに投与した結果、肥満や高血糖、脂肪肝が改善すること、WSCAの効果により腸内環境の変化を介して吸収可能な単純糖質を減少させること、および、WSCAが肝臓での糖質貯蓄を減少させることを突き止めた。
共同研究グループは短鎖脂肪酸の一種である酢酸を消化管内で効果的に遊離するWSCAを作成し、どのような腸内環境であっても酢酸を増加させることができる手法を開発した。大野チームディレクターらは以前の研究でWSCAが消化管の免疫機能を高めることを明らかにしたが、今回新たに代謝機能に対する効果を検証した。
共同研究グループは、WSCAをマウスに投与すると、マウスの体重増加が抑制されることを突き止めた。この効果はその大部分が上部消化管で吸収される酢酸ナトリウムの投与では見られないため、消化管内で酢酸を増加させるWSCAに特徴的であることが分かった。さらに、肥満マウスにWSCAを投与したところ、高血糖や脂肪肝などが改善することが判明した。一方、他の短鎖脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸の効果も同様の方法で調べたが、体重増加などに変化は見られなかった。
次に共同研究グループはWSCAがマウスの代謝に及ぼす影響を調べた。その結果、WSCAは脂肪分解の代謝を促進するとともに、糖質代謝を抑制することが分かった。
最後に、共同研究グループは酢酸が腸内細菌に与える直接的な効果を調べた。その結果、酢酸はBacteroides thetaiotaomicron菌の増殖を促すことで糖質消費を加速させること、また、同菌の糖質代謝に関わる遺伝子の発現を増やすことが分かった。以上の結果から、WSCAは消化管内で酢酸を増加させることで、Bacteroides thetaiotaomicron菌をはじめとする腸内細菌による糖質消費を促進し、その結果、消化管からの糖質吸収を制限して体重増加を抑制する効果をもたらすことが明らかになった。
研究ではWSCAによって消化管内で増加した酢酸が腸内細菌の糖代謝機能を変化させ、結果として消化管からの糖質吸収を低下させることで体重抑制効果をもたらす可能性を示した。WSCAは短鎖脂肪酸の一種である酢酸を効果的に消化管に届けることが可能な新規プレバイオティクスとして、投薬に比べて安価で手軽であることから、食品分野への応用も期待できる。従来の食物繊維素材に比べてより安定的な効果が見込まれ、今後、実用化を目指して安全性とヒトにおける抗肥満作用の検証が望まれる。
2025年05月20日