NEDO 世界最高水準の耐環境特性ゴム材料を開発

2016年01月26日

ゴムタイムス社

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は1月25日、単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)と産業技術総合研究所(産総研)が、ゴム材料に単層カーボンナノチューブ(CNT)を加えることにより、世界最高水準の耐熱性、耐熱水性、耐酸・耐アルカリ性などの耐環境特性を持つゴム材料をNEDOプロジェクトで開発したと発表した。

 フッ素ゴムやポリウレタンなどのエラストマー材料は、ゴム弾性という特徴に加え、ガスや液体のバリア性に優れ、様々な形状への成形が容易であることから、シーリング材料として特に優れている。しかし、熱、熱水、酸・アルカリなどの環境下では劣化するため、これらの環境下で使うには制限があった。

 TASCと産総研は今回のプロジェクトで、ゴムなどのエラストマー材料中に単層CNTを添加することにより、世界最高水準の耐熱性、耐熱水性、耐酸・耐アルカリ性などの耐環境特性を持つ新たな複合材料を開発した。

 これにより、耐熱性・耐熱水性が求められる石油掘削装置などのシーリング、自動車などの金属ガスケットの代替、化学プラントの高温部シールへの適用、燃料輸送への適用など、ゴムなどのエラストマー材料の適用範囲が飛躍的に拡大することが期待される。

 なお同成果は、1月27~29日に東京・有明の東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2016 第15回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」のNEDOブースで展示する。

 産総研はスーパーグロース法で得られる単層CNT(SGCNT)とエラストマー材料の複合化研究で、高度なネットワーク構造を保ちながらSGCNTをエラストマー材料中に超高分散させる技術を開発。これにより、エラストマー材料の耐熱性、耐熱水性、耐酸・耐アルカリ性などの耐環境特性が大きく向上した。

 ただ、力学的強度や電気・熱伝導性など、SGCNTの持つ優れた物理・化学的補強効果を最大限に生かすためには、SGCNTをできるだけ均一に、かつ孤立分散に近い状態でエラストマー材料などのマトリックスに分散させる必要がある。しかし、繊維状のSGCNTは、カーボンブラックなど粒状である既存のフィラー(充填材)に用いられる方法では分散させることができないため、全く新しい複合化技術を開発する必要があった。

 今回、SGCNTを種々の工程により分散し、フッ素ゴムと有機溶媒中で混合、最後に有機溶媒を除去することによりSGCNT/ゴムマスターバッチを作製。長いポリマー分子同士の連結(架橋)が必要なゴムに関しては、二本ロールでこのSGCNT/ゴムマスターバッチを混練りしながら架橋開始剤や架橋剤などを加え、複合材料を作製した。実際に作製したフッ素ゴム中に1wt%添加されたCNTの構造は、緻密なネットワーク構造を持っていることが確認できる。SGCNT間の距離は約50~10μmで、SGCNTがゴム中で偏在することなく分散している。

 また、フッ素ゴムは劣化すると貯蔵弾性率が低下することから、耐熱性試験として高温下で24時間後の貯蔵弾性率変化の測定を行った。SGCNT未添加のフッ素ゴムでは、200℃以上で貯蔵弾性率の低下が始まり、280℃では24時間で80%低下。一方、SGCNTを1wt%加えたフッ素ゴムでは、貯蔵弾性率の低下はほとんど起こらず、劣化が抑制されていた。

 さらに、280℃、6・3MPaの水蒸気中で3時間保持した際の、形態変化と物性変化を測定する熱水環境試験を実施したところ、フッ素ゴム単体や市販の耐熱ゴムでは、表面凹凸の増加、硬化などの形態変化が観察されるとともに、試験前に比べて引張強度や硬度(IRHD)といった物性も低下した。一方、SGCNTを添加したフッ素ゴムでは形態変化は確認されず、物性にもほとんど変化がなく、耐熱水性が大幅に向上していることが確認された。

 耐酸・耐アルカリ性については、ポリウレタンにSGCNTを5wt%添加した材料と添加しなかった材料で酸(3mol/l塩酸)とアルカリ(3mol/l水酸化カリウム)に対する耐性比較を行った。SGCNTを添加しなかった材料は劣化したものの、SGCNTを添加した材料では、引張試験に耐えうる強度を保っており、SGCNTを添加することによって加水分解による材料劣化を抑制できることが示された。

 市販フッ素ゴムの中でも耐熱性の高いパーフロロエラストマーは、80万~100万円/kgと高価なため材料展開が阻まれてきたが、今回開発した材料は、1万円/kg程度と比較的安価なフッ素ゴムを基材に用いてパーフロロエラストマーに匹敵する耐熱性を実現できており、コスト面で使用できなかった用途への展開が見込まれる。また、基材のフッ素化度を低く抑えることができるため柔らかさを保持しており、材料混練りや成形の容易さの面でも利点がある。

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