シリーズ連載③シリコーンゴムの活用法 シリコーンゴムの速習

2021年08月05日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

シリーズ連載③  シリコーンゴムの活用法
No.3 シリコーンゴムの速習

戸知技術研究所 戸知光喜

 前号ではシリコーンゴムの基礎化学について記した。続いてシリコーンガムの合成・重合技術とシリコーンゴムの配合組成について記す。

1.シリコーンガムの合成・重合のフロー

 シリコーンゴムの主要骨格ポリマーとしてのガムであるポリジメチルシロキサンの合成・重合の代表的なフローは図1に示す。
 まず、金属ケイ素とメチルクロライドの直接反応で合成されたクロロシラン類などの複合物よりジメチルジクロロシランを蒸留精製する。次にジメチルクロロシランを加水分解して得られるハイドロリゼートと称されることの多いシロキサン(環状シロキサン、鎖状シロキサン)を重合してガムを製造する。
各ステップについて詳しく見ていく。

2.オルガノクロロシラン合成

 シリコーンゴムの骨格ポリマーとしてのガム(ポリオルガノシロキサン)の基礎原料となるオルガノクロロシランは、主にロコー(Rochow)らが発明した直説法で合成される。直説法はハロゲン化炭化水素と金属ケイ素を銅触媒の存在下、気相で250~500℃で反応させオルガノハロシランを合成する方法である1)。ハロゲン化炭化水素は、主にメチルクロライド(CH3Cl)ガス、金属ケイ素は、ケイ石を炭素で還元した物である。最も重要なジメチルジクロロシランは、直説法で合成される主物質であるが、表1に示したように多種の沸点の近いクロロシラン類、各種副生物が生成される。
 直説法で最も単純化された反応は式(1)に示される。

 式(1)は理想的な反応であるが、実際には、 式(2)(3)(4)などの反応も進む。
 式(2)に示す有機フリーラヂカルが発生し、更なる反応が進み、オルガノーH-ハロシラン 例えば RSiHX₂およびR₂SiHXなどの副生物が生成される。また式(3)(4)に示すようにフリーのハロゲンが生成し、四塩化ハロゲン、例えば四塩化ケイ素、SiCl₄も副生される。また、高沸点
(>70℃)の副生物には、ジシラン類も含まれる。
 ガムの主鎖の基礎原料となるジメチルジクロロシランは高純度が求められる。つまり、ジメチルジクロロシラン以外のクロロシランのコンタミは、ガムの主鎖の分岐点、末端形成に関与し、ガムの品質に影響する。しかし、前述した直説法では沸点の近い多種のクロロシランが生成し、それらを分離精製する必要があり、一般に多段(100段以上)の蒸留塔が用いられる。また、クロロシラン合成プラントを構成する材質および原料から持ち込まれる微量元素などもシリコーンゴムの品質に影響する可能性がある。
 直説法で生産されるジメチルジクロロシラン以外に多種のクロロシランが発生する。シリコーンゴムに関係する用途としては、トリクロロシラン(HSiCl₃)は各種シランカップリング剤の原料となる。テトラクロロシラン(SiCl₄)は乾式シリカ、シリケート、レジンの原料。トリメチルクロロシラン(Me₃SiCl)はガム末端基および可塑剤として使用されるヘキサメチルシラザン(HMDZ)の原料。メチルトリクロロシラン(MeSiCl₃)は乾式シリカ、レジンの原料。ジメチルクロロシラン(Me₂HSiCl)はガムビニル末端基の原料。メチルジクロロシラン(MeHSiCl₂)はガム側鎖官能基を含むモノマー物質の原料として使用される。また、直説法では多種のクロロシランが同時に製造されるため、各種クロロシランの使用用途毎に過不足が生じる事があり、高沸点残留物の処理と合わせて製造上の課題となっている。
 オルガノクロロシランの合成は他に、有機亜鉛または有機水銀を用いた方法、Wurtz-Fitting法、グリニヤール法、有機リチウム化合物との反応、有機アルミニウム化合物との反応、などが有るが、原料・プロセスコストの安価な反応である直説法が最も工業生産に使用されている。
 直説法およびジメチルジクロロシランの主原料である金属ケイ素は、ケイ素と酸素を主成分とするケイ石を木炭などと一緒に電気炉で融解、還元して作られる。金属ケイ素の製造には膨大な電力を消費するため、主要生産国は比較的電力コストの安い中国、ブラジル、オーストラリアなどで製造される。日本では昭和電工、信越化学工業など数社が過去に製造していたが、現在は製造していない。直説法には粉末状にした金属ケイ素が使用される。
 もう一つの主原料であるメチルクロライドはメタノールと塩酸を反応させることにより得られる(式(5))。気相、液相反応が有るが、副生成物の発生を抑え収率の高い製法が行われている。
 原料である金属ケイ素およびメチルクロライドの不純物は、合成・加工プロセスの最終形であるシリコーンゴムの特性・品質に影響を与える可能性があり、精査する必要がある。
 オルガノクロロシランを含むクロロシラン類の取り扱いは安全上注意を要する、例えばシリコーン工業会のホームページの“クロロシラン類の国際安全取扱い指針”などを参照し法令およびメーカーの取り扱い基準に準じて取扱う事が重要である。実験室においても同様である。
 オルガノクロロシランの微量分析は、先に述べたガムおよびシリコーンゴムの特性・品質との関連性も高くppmオーダーまたはそれ以下での分析が必要である。

3.シロキサンの基本構成単位

 シリコーンの説明に多用されるシロキサンの構成単位を図2に示す。
 有機基(R)の3個ついた一官能性はM、有機基(R)の2個ついた二官能性はD、有機基(R)の1個ついた三官能性はT、シロキサンの結合手を全て残している四官能性はQ単位と呼ばれる。例えば直鎖状ポリシロキサンはMDxM、後述する分岐構造を持つシリコーンレジンはMQ、DTなどで記される。

4.クロロシラン加水分解

 クロロシランは水と容易に反応してシラノールを生成する。その後シラノールどうしが縮合してシロキサン結合を形成する。

 図3に示すようにジメチルジクロロシランの加水分解では、加水分解・縮合により環状シロキサンと両末端SiOH直鎖状シロキサンが得られる。環状シロキサンはD単位のみで構成されているため、Dと記され、その単位の数を添えてD3、D4などと記され、サイクリクスとも称される。
 一方、両末端SiOH直鎖状シロキサンはLと記されリニアーとも称される。また、環状シロキサン(D)と両末端SiOH直鎖状シロキサン(L)の混合物をハイドロリゼート(hydrolyzate)と呼ぶ場合がある。環状シロキサン(D)と両末端SiOH直鎖状シロキサン(L)の特性を表2に記す3)。
 環状シロキサンであるD3、D4は、室温近傍に融点があり固結などの現象を起こしやすいので取扱いに注意を要する。また表2に示す低分子量の両末端SiOH直鎖状シロキサンであるL体は沸点が低く揮発しやすい、かつ反応性の高いシラノール基を有することが特徴である。加水分解により環状シロキサンと両末端SiOH直鎖状シロキサンの生成比率は、反応系の酸濃度、酸の種類等により変化する。
 環状シロキサンは、ハイドロリゼートより分離精製され製品および原料として使用される。場合によってはバイドロリゼートを熱クラッキングする事により環状シロキサンを得る事もある。一方加水分解で得られた両末端SiOH直鎖状シロキサンは、種々のシリコーン製品の原料として有効活用される。
また種々の置換基を持つクロロシランを共加水分解することにより、様々な特性および反応性を持つシロキサンを合成することができ有用である。

5.ガム重合

 加水分解で得られたシロキサンをモノマーとして使用するガム重合技術について紹介する。シロキサン結合は前述したようにイオン性が強い、そのため酸や塩基の存在下で切断と再結合が容易に起こる。この性質を利用してガム重合が行われる。つまり、シロキサンの重合は、酸または塩基中で切断・再結合をランダムに繰り返し、熱力学的な平衡に到達する。平衡状態では環状体(D)と重合物であるガムの比率およびその分子量は、温度、触媒濃度、シロキサン側鎖の種類、末端成分濃度(M)に依存する。シロキサンポリマー重合平衡の模式図を図4に示す。
 ガム重合では、モノマー自体に末端成分を含まない環状シロキサンが好まれる。例えば、KOHを重合触媒にした環状シロキサンの重合を例にすると、開環重合で高分子化することができる。

6.シリコーンゴムの基本配合

 シリコーンゴムの基本配合組成は、表3に示すガム、可塑剤、シリカを主とした補強充填剤、増量充填剤、耐熱剤、シリコーンレジンなどの各種添加剤、顔料、有機過酸化物などの架橋剤より構成される。
 シリコーン自体の特徴に加えて多種、多様な特徴、特性を配合組成および配合方法により付加することができる。

7.ガム

 シリコーンゴムの主成分であるガムは、側鎖、末端に有機基を有するポリオルガノシロキサンである。一般には、前述したオルガノシロキサンモノマーを重合して得る事ができる 。ガムは、所定のシリコーンゴムの特性を得る為に、重合度、種々の官能基量等を調整して合成している。ガムの重合度は一般に3000~11000、官能基としてはビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基などがある。また、低分子のシロキサンオリゴマーおよび重合触媒残渣、プロセス材質成分など様々な物質が含有しており、それらが、シリコーンゴムの特性に影響する事もあるので、注意を要する。
 主鎖である、シロキサン結合はイオン性の高い化学結合である事および高い気体透過性を有する事が特徴で、シリコーンゴムの特性、加工性に影響を及ぼす大きな因子の一つである。つまり、イオン性の物質、使用される環境に影響を受けやすい事が考えられる。
 また、高分子シロキサンのみを架橋させる事は可能であるが、ゴム物性が低く、補強材の使用が必須である事も特徴のひとつである。

8.充填剤

 シリコーンガム自体は多くの優れた特性を示すが、その分子間力が小さく架橋後のゴムの物理特性である引張り強さ、伸び、引裂き強さが低いという欠点がある。そのため補強の目的としての充填剤が検討された。
 現在、シリコーンゴムに使用されている充填剤はシリカである。シリカの分類を図5に示した。シリカには天然シリカと合成シリカに分類され、補強充填剤としては乾式シリカと湿式シリカが主として使用される。
 充填剤には、主に補強性シリカとその他充填剤に分けられる

8.1 補強性シリカ

 補強性シリカを含まないシリコーンゴムは、ユーザーにとって満足なゴム物性を与える事が少ない。したがって、一般的には乾式シリカ、湿式シリカを補強性シリカとして使用する。比表面積が高く(50~400m2/gr BET比表面積)小粒径のシリカが、複数のメーカーより供給されている。シリカの高次構造、表面特性、不純物などが、シリコーンゴムの特性、加工性を大きく作用する可能性が高いので注意を要する。また、シリカは吸湿性の高い材料として知られており、シリコーンゴムの配合成分としてのシリカの吸湿挙動も種々の特性、加工トラブルの要因として注目する事が必要である。
 乾式シリカおよび湿式シリカをガムに分散したSEM写真を図6に示す。湿式シリカの分散状態は、大きな粒径の粒子が存在することが特徴的である。

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