シリコーンゴムの歴史および構成と製造の概要

2021年03月02日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特設記事1 シリコーンゴムの基礎と応用

シリコーンゴムの歴史および構成と製造の概要

戸知技術研究所 戸知光喜

1.はじめに

 シリコーンゴムはその基礎原料であるメチルクロロシランの工業生産が始まってから約80年の歴史を持つ。シリコーンゴムの需要と用途の拡大は継続しており、近年その独特の特性である柔軟性、耐候性、耐寒性などが更に注目されている。一方、シリコーンゴムの製造、加工は各企業、団体の鋭意努力により更に洗練され高度な技術が構築されつつある。
 本報では、シリコーンゴムの歴史および構成、製造についての概要について説明する。

2.シリコーンゴムの歴史

 シリコーンゴム製品の開発は、1930年代初頭に米国においてシリコーンゴムの工業化検討が始まり、1944年にはシリコーンゴムの初めての特許が公開された1)。当該特許ではジメチルジクロロシランの加水分解反応後の高沸点リニアー状ポリシロキサンに酸化鉄をフィラーとして加え 塩化アルミニウムで架橋したものである。
 初めての特許が公開された後 急速にシリコーンゴムの特許件数も増え続け、現時点までに数万報に及ぶ特許が世界で公開されている。
 1824年、シリコーンゴムの技術の素となるケイ素化学において、初期の最も重要な出来事としては、Berzeliusによるケイフッ化カリウム(K2SiF6)の還元によるケイ素の単離とケイ素塩化物の合成である。他にScheeleの四フッ化ケイ素、Wöhlerのモノシランの合成なども顕著な功績である。いわゆるシリカ、シリケートとして地球上に存在していたケイ素を単離、再合成することにより、元素としてのケイ素を工業的に利用する礎を築いたものといえる。
 ケイ素から有機ケイ素化学への進歩は1865年FriedelとCraftによる四エチルシランの合成により始まる(図1)。その後、1871年Ladenburgらによりジエチルジエトキシシランの加水分解により高粘度のオイル状物が合成され、耐熱、耐寒性のある事が発見された。シリコーンゴムの先駆けとなる発見であったが、この系での検討は進まなかった。   
 その後、1904年英国のKippingがグリニアー法により多種の有機基をケイ素に結合させる事に成功し(図2)、有機ケイ素化学の基礎を作った。シリコーン(Silicone)という言葉はKippingが炭素のケトンRR’C=Oに相当するケイ素化合物RR’Si=Oに対してその類推からSiliconとKetoneを短縮して作った造語である。しかしKippingの期待するケイ素化合物RR’Si=Oは得られず、クロロシランの加水分解から得られる化合物は、シラノールを経て(RR’SiO)nポリシロキサン重合体が合成された(図3)。Kippingがポリシロキサン重合体のことを “魅力的でない糊とかオイル”と称し、後に重要となる物質に対して批判的であったことは興味深い。
 1930年代Staudingerらによる高分子化学の進歩に伴い、Corning Glass WorksのHyde、General ElectricのRochowらがKippigの研究を基に有機ケイ素高分子の研究が進展、有機ケイ素高分子が悪条件の下でも機能する事を見出した。その後第二次世界大戦中に研究開発が急速に進み、シリコーンオイル、レジンおよびそのコンパウンドが、他の高分子が機能しなくなる高温、低温での条件、厳しい電気絶縁の求められる条件において使用できることを見出した。
 1943年Corning Glass WorksとDowChemicalの合弁会社であるDow Corning社、同時期に General Electric社がそれぞれシリコーンの工業化を進めた。
 シリコーンの工業化の初期は、Kippingの研究を基にしたグリニアール試薬を用いた有機シロキサンモノマーの合成であったが、高コストであった。その後、Rochowらによりシリカをコークスで還元して得られた金属ケイ素にメチルクロライドを直接反応し種々のクロロシランを、比較的低コストで合成する方法が実用化された(図4)。直説法は、あらかじめ合成された有機金属試薬、燃焼性の高い溶剤を使用することが無い反応で、シリコーンの工業化の進展に大きく貢献した反応といえる。
 直説法で合成されたジメチルジクロロシランを加水分解することにより環状、鎖状のポリシロキサンを得ることができ(図5)、更にそれらを重合することにより種々の重合物を得ることができ、シリコーンゴムの骨格となるポリマーが合成される2)。
 最初のシリコーンゴムは、加水分解で得られた比較的分子量の高くない鎖状ポリシロキサンを縮合触媒で高分子化させ、酸化鉄をフィラーとして加え塩化アルミで架橋させたものであった1)。これら初期のシリコーンゴムは高温下で使用される探照灯およびターボチャージャーのガスケットに使用された。しかし、当シリコーンゴムは使用するポリマーの分子量が低く、かつ枝分かれの多い、縮合触媒の残渣が含まれる事により、弱く不安定な品質のものであった。
 1948年J.F.Hydeらによる低分子環状シロキサンをモノマーとしたアルカリ触媒による開環重合で得られる高分子鎖状シロキサンの発明3)が今日の熱架橋シリコーンゴムの工業化の道標の一つとなった。環状シロキサンの開環重合反応は複雑で、他の有機化合物の開環重合反応と大きく異なることが発見された4)。
 これらの縮合、開環重合の技術の発展により多様な分子量、分子量分布、化学組成を持つ高分子シロキサンが創生された。
 本質的に高分子シロキサンの高分子鎖間の相互作用が小さい、1940年、その相互作用を高める技術として、少量のホウ素化合物を加えることにより、高せん断時に高い弾性挙動を示し、低せん断時には流動する性質を有する、いわゆるバウンシングパテが開発された。後年、その技術を用いた玩具として “SILLY PUTTY”が販売された。
 高分子シロキサンのみを架橋しただけでは引張強度が0.35MPa程度であり、補強が必要である。1951年には、E.L.Warrickにより乾式シリカを補強充填剤として加えることで実用的な強度を持つシリコーンゴム組成が発明された5)。シリカによるシリコーンゴムの補強が主であり、乾式シリカによる補強の他に湿式シリカによるシリコーンゴム補強技術は1980年前後より日本を中心に技術開発された。
 他にシリコーンレジン、オルガノシルフェニレン、有機高分子との共重合などによる補強技術の開発が継続されている。
 シリコーンゴムの架橋技術は、1940年代初頭、塩化アルミニウムを用いた架橋が最初のシリコーンゴム架橋であった1)。その直後、ベンゾイルパーオキサイドを代表とする有機過酸化物によるラジカル架橋技術が発明され6)、種々な有機過酸化物による架橋技術が発展した。同時にラジカル反応性の高いビニル基をシリコーンポリマー側鎖および末端に導入する技術も合わせて発展した2)。また、1947年、Speier Platinum Catalystとして知られる白金触媒によるSiH基への付加架橋反応もシリコーンゴムの代表的な架橋反応として発明、進歩していった。
 シリコーンゴムの製造は、ゴム産業で典型的なインターナルミキサーとロールミルを使用した生産方法が取られている。その後、液状シリコーンゴムが開発されると、ロールミルを使用しない簡素な混練プロセスによる生産方式が採用されている。シリコーンゴム成形においては、伝統的なモールド成形、押出成形、トランスファー成形に加え、1980年代からは ミラブルインジェクション、液状ゴム射出成型、2色成形、UV架橋成形などの生産性向上を目指した新しい成形方法の導入が拡大している。
 シリコーンゴムの初期の用途は、第二次世界大戦中の軍事用探照灯およびターボチャージャー

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