フッ素ゴムの基礎

2021年02月25日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特設記事1 知っておきたいフッ素ゴムの基礎

フッ素ゴムの基礎

ゴム技術コンサルタント 杉谷和俊

1.はじめに

 一昔前までは、フッ素ゴムというと極めて高価な特殊材料という位置付けであり、図面にも材質欄にフッ素ゴムではなくバイトン®(現在のケマーズの商品名)という商品名が記載されていたことも珍しくなかった。
 その後、自動車分野を筆頭にその用途が拡大し、それに伴って価格も下がってきた為、かなり一般的な合成ゴムの一つという捉え方をされるようになってきている。
 しかしフッ素ゴムの種類も増えてきており、それらの特徴を正しく認識して使用されているかについては疑問がある。
 紙面も限られているので全てを伝えることは無理としても、少しでも読者の理解が深まれば幸いである。

2.フッ素ゴム開発の歴史

2.1 重合技術
 フッ素ゴムの歴史は以下のように始まった。
 ◎1930年代にPTFE樹脂が開発された
  DuPontのプランケット博士
 ◎1954年に最初のフッ素ゴムが開発された
  DuPontのレッドフォード博士
 ◎1957年にバイトン®として上市された
 これ以降、三元系フッ素ゴム、過酸化物加硫フッ素ゴム、パーフルオロフッ素ゴム等が次々と開発されたが、全てDuPontが先陣を切っており、フッ素ゴム業界におけるDuPontの功績は絶大であった。
 国産メーカーとしてはダイキン工業が1970年代にダイエルを上市し、フッ素ゴム製造に本格的に参入してきた。
 一方旭硝子(現在のAGC)はモノマー構成の異なるアフラス(TFE-PP共重合体)を1975年に上市した。

2.2 加硫系の開発
 当初はアミン加硫しか無かったが、1970年代に画期的なポリオール加硫(ビスフェノール加硫ともいう)が開発された。これはDuPontと3Mがクロスライセンスを結んでいたため、アウジモントやダイキンはこの特許を逃れるために、別の加硫促進剤を探し出している。
 この加硫システムはアミン加硫と比較して、圧縮永久歪み、耐熱性及びスコーチ安定性に優れており、加工メーカーにとって非常に扱い易い材料となった。
 過酸化物加硫は当初臭素を架橋部位としていたが、1980年代にダイキンが末端ヨウ素を架橋部位とする画期的な技術を開発した。
 この技術によって受酸剤の添加が不要となり、高速加硫、耐薬品性の向上及び圧縮永久歪みの改善がなされた。
 基本特許は切れているので、現在は各社ともこの技術を応用して過酸化物加硫品を製造している。

3.フッ素ゴムの落とし穴

 価格が下がってきたとはいえ、代表的な耐油性ゴムであるNBRと比較するとフッ素ゴムは依然高価な材料である。
 高価であることを高性能であると単純に受け取ると思わぬ大失敗を犯すことになるので、ここで少しフッ素ゴムの弱点について簡単に述べることとする。

3.1 耐熱性についての誤解
 フッ素ゴムの代表的な特性として、耐熱性に優れるということは周知のことであるが、それは限定された条件下における結果であることを理解しておく必要がある。
 カタログに出ている耐熱性というのは、高温のオーブンに一定時間投入し、サンプルを室温に戻してから物性測定し、それがオリジナルの物性を維持していることを示している。
 ところが高温状態で物性測定を行うとフッ素ゴムは極めて脆く、100℃においては引張強度が弱いと言われているシリコンゴムより引張り強度は低くなっている(図1)。
 つまり、O-リングの様な静的な仕様であれば耐熱性の良さは維持されたとしても、動的なストレスが掛かるような使い方をすると、フッ素ゴムの製品は短時間で破壊されてしまうことになる。

3.2 耐薬品性に関する誤解
 フッ素ゴムは耐薬品性に優れるというのは一般的に言えば正しいが、アルカリ性に関して言えばEPDMより遥かに劣ることを認識しておく必要がある。
 極端な例ではあるが、以下に、エチレンジアミン(図2)に浸せきさせた場合、フッ素ゴムが

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