概論 熱可塑性エラストマーの最近の動向

2021年02月25日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特集1 多用化するエラストマーの用途展開と特徴

概論 熱可塑性エラストマーの最近の動向

エラストマー ソリューションズ カンパニー代表 柳澤秀樹

1.はじめに

 自動車業界では100年に一度の大改革とかで「CASE」や「MaaS」で盛り上がっているが、ご承知のように「CASE」は、「 C:Connectivity(接続性) A:Autonomas(自動運転) S:Shared(共有) E:Electric(電動化)」の略で、元は2016年のパリモーターショーでのドイツダイムラー社社長の発言からスタートしている。また、「MaaS」は「Mobility as a Service」の略称で日本ではまだ提供が始まっていないが、取り組みが官民双方で検討が始まった。この分野ではフィンランドのベンチャー企業である「MaaS Global社」が先進事例を提供している。筆者の理解ではトヨタの提唱する「e-Palette concept」も同じで、前述のCASEの中の「カーシェアリングより広い概念を感じる。 トヨタの豊田章男社長が2018年、「自動車をつくる会社からモビリティ・カンパニーにモデルチェンジする」と宣言し、モビリティサービスの領域に事業の軸を移すこととし、コンセプトモデルの「e-Palette(イーパレット)」を発表している。「CASE」や「MaaS」を実現化するにはインフラ整備、特にインターネット環境(5G/6Gやクラウド)、高精度GPS等衛星通信環境の提供が必須である。
 一方、材料である熱可塑性エラストマー(以下TPEとする)は自動車用途のみならず日用品に至る広範囲に採用されており、今や不可欠な材料となっている。また、TPE自体の種類、また基本TPEを変性或いは改質し、よりマーケットニーズに合うようグレードが増えてきている。更に国産品のみならず、産業のグローバル化を反映し輸入品も増加し、種類によっては、今までの安定成長から今後は戦国時代への移行さえ想定される。
 ここではTPEの種類、最近の話題を含めて紹介し、今後の材料選択肢の一助となれば幸甚である。

1.熱可塑性エラストマー(TPE)の定義
 熱可塑性エラストマーは一般的にTPEと略されることが多いが、これは英語のThermoPlastic Elastomerの頭文字からきたものであり、熱硬化性ゴムをTSR(ThermoSet Rubber)と呼ぶことと対になるワードでもある
(1) Elastomer(エラストマー)
 室温で弱い応力でかなり変形した後その応力を除くと急速にほぼ元の寸法及び形状に戻る高分子材料
(2)Rubber(ゴム)
 標準室温においてその長さを2倍に伸ばし且つ緩める前に1分間そのままに保持しても1分以内に元の長さの1.5倍以下に収縮する。
(3) Plastic(プラスチック)
 必須の構成成分として高重合体を含みかつ完全製品への加工のある段階で流れによって形を与える得る材料(注1 同様に流れをよって形を与え得る弾性体はプラスチックとしては考えない。)
(4)‌ThermoPlastic Elastomer(熱可塑性エラストマー)
 加工及び使用においてその材料に特有の温度範囲内で繰り返し加熱及び冷却される際にも依然として熱可塑性のままであるエラストマー。
 即ち、エラストマーはゴムを含め弾性体全体を示し、プラスチックは加熱で溶融させ冷却で成形できる高分子材料で、このプラスチックと同じ加工性を有する「弾性体」がTPEとなる。TPEの個別名称に関してはJIS K 6418_2007(ISO 18064:2003)(熱可塑性エラストマー−用語及び略号)を参照されたい。ここでは慣用されている名を使用する。

2.TPEの種類と特徴

 ゴム弾性を示すTPEはゴムのような加硫(架橋)を必要としない代わりに、構成としてプラスチックの熱可塑性(ハードセグメント)とゴムの弾性(ソフトセグメント)の2成分を含む化合物或いは配合物から成り立つ。その為、加工はプラスチックの加工機がそのまま利用可能でき、労働力集約的生産工程ではない。過去、TPEは軽量化、高い生産性、リサイクル性の利点を生かしゴム製品の代替材として市場を拡大してきたが、現在はTPE間の代替も進んでいる。
 種類としてはブロック系とブレンド系に大別される。ハードセグメントは主として耐熱性、加工性(溶融温度、流動性)、またソフトセグメントは主として弾性(硬度、圧縮永久歪み)に寄与する。
 (1)ブロック系:「A-B-A」のように熱可塑性を示すプラスチックのブロックとゴム弾性を示すソフトセグメントのブロックを結合させたもので、各成分の種類選択(組み合わせ)、ブロックの大きさ(重合度)、ブロックの比率、重合触媒等、性能を決める因子は多数ある。代表的TPEとしてはR-TPO、TPS、TPU、TPEE、TPAE、TPFE、TPSEなどがある。
 (2)ブレンド系:「A+B」のようにポリマーアロイで所謂海島構造混合物で、ハードセグメントであるプラスチックは海となり、ソフトセグメントであるゴム弾性成分が島となり海に微分散しているイメージとなる。各成分の種類選択、ブレンド比、ソフトセグメントの粒子径によって性能が左右される。代表的なTPEとしてはs-TPO、TPV、TPVCがある。
 TPEの種類を筆者は図1のように分類している。以下、個別に代表的特徴を挙げるが、一般的な物性比較を表1に、硬度と圧縮永久歪み、引っ張り強さ特性の関係を図2に、また耐油性、耐薬品性の概要を図5に示す。ゴムとの比較は図4に耐熱、耐油を指標として相対的位置関係を示す。TPE別の市販商品名等を表2~7に示すが、調査漏れがある可能性もあるのでご了解いただきたい。

2.1 ‌オレフィン系: TPO (Thermoplastic Olefin)
 オレフィン系TPEはブレンド系とブロック系があり、またブレンド系はソフトセグメント(所謂ゴム分)を架橋させ、よりゴム的にするかい、否かで架橋系(TPV)、非架橋系(TPO)に分けられ、更に架橋系も架橋度によってf-TPV(full vulcanization;完全架橋)、p-TPV(partial vulcanization;部分架橋)に細分化される。

2.1.1 非架橋系TPO:
 フィルムやシート成形に良好で金型への転写性も良好である。
 (1)s-TPO: ハードセグメント(主としてPP)とソフトセグメント(主としてEPM)を物理的にブレンドしたもので、古くは車のバンパー等に使用されていた。高硬度品が中心となる。
 (2)R-TPO:リアクター中でハードセグメントとソフトセグメントを化学的にブロック共重合するもので、機械的ブレンドs-TPOと比べてより均一性が良いと考えられる。高硬度品が多く、ポリマーの純度が高く、透明性が得られやすいので、医療関係の輸液バッグなどにも使用される。一方軟質系では1990年代に発明されたメタロセン系触媒で共重合したTPO(α-オレフィンエラストマーとも呼ばれる)はモノマーにC3のみならず、C2、C4や、C8の共重合体で、分子構造の均一性が高く分量分布が狭く、分子長の均一性が高く、低結晶成分が少ないことから透明性が高い特徴がある。現在はホットメルトのベースポリマー、人工皮革、PP改質剤などに多用されている。

2.1.2 架橋系TPO(TPVと称す)
 多くの場合はハードセグメントであるPPにソフトセグメントとなるEPDMゴムを物理的に微分散(ゴム粒子は

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