ゴム・エラストマーの技術と分析

2020年10月03日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH2」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特集2 材料開発・品質改善に役立つゴム・エラストマー分析

ゴム・エラストマーの技術と分析

元・住友ゴム工業㈱、博士(工学) 土肥英彦

はじめに
 ゴム・エラストマー材料はソフトナノコンポジットの代表格であり、われわれの生活のあらゆる場面で使われている。近年の環境・安全・資源のニーズの高まりを受け、ゴム・エラストマーの材料開発・品質改善および高機能化・高耐久化のためには、その複雑で不均質な構造を正確に解析し、物性・現象発現メカニズムを解明する分析技術が不可欠の技術である。
 本講では、ゴム・エラストマーの技術を概説した上で、ものづくりのための分析技術の重要性・進め方について述べ、装置の原理・手法について実際のデータを交えて解説する。様々な形態で発生するトラブル・劣化解析について分析事例に基づいて解説し、破壊挙動の可視化技術および分析技術による寿命予測法についても述べる。さらに、材料開発・品質改善への応用事例について新しい分析技術も加え解説する。これらを通じ、ゴム・エラストマーの材料開発・品質改善・トラブル対策のための分析技術について理解を深める。

Ⅰ.ゴム・エラストマーの技術 
(1) ゴム・エラストマーの材料と構造
 ゴム・エラストマーは、原料ゴム・ポリマーおよび充填剤・架橋剤・可塑剤など多くの構成材料からなり、これらの材料が互いに分散・拡散・結合・吸着することにより、不均一構造を形成している。
 図1のようにこの構造は、多数の異なる相からなる異相共存場(Hetero Phase Field)の世界にあり、 ミクロ~ナノ~分子~電子レベルに渡る複雑な階層構造1)を形成している。この階層構造は、ゴム・エラストマー製品の製造工程(混練・成型・架橋など)で変化すると共に、市場での実使用の過程でも、熱・応力などの様々な外部刺激を受けて変化する。
この変化の状態は、ゴム・エラストマーの物性発現や性能発現に大きな影響を及ぼしている。これらの不均一階層構造における、分散・反応・界面現象を解明することは重要課題である。
(2) ゴム・エラストマーのテクノロジー
 ゴム・エラストマーの最大の特徴は、超低弾性率・可逆的大変形・粘弾性にある。これらの特徴をベースにして、様々な要求性能にミートすべく製品設計・製造される。
 ゴム・エラストマーのテクノロジー(図2)とは、材料の構造や現象発現に関する科学的根拠・原理・原則を見出し、それを応用展開することにより、新たな機能を持つゴム・エラストマー材料・製品あるいは新規プロセスを開発する技術であると言える。ゴム・エラストマーのテクノロジーの基本技術は、架橋・補強・粘弾性・相溶性・接着・劣化抑制に大別される1)。硫黄架橋(加硫)については、1839年にGoodyearにより発見されて以来、ゴム工業にとっては必須の基幹技術となった。カーボンブラックやシリカなどのナノフィラーの分散性、表面特性、ナノフィラーとポリマーの界面構造などの研究は、ゴムの補強機構や粘弾性特性に関する古くて新しいかつ重要な研究課題である。ブレンドポリマーの相溶性や配合薬品の分配現象は、材料の相分離構造や粘弾性特性を左右する。また、繊維・金属・樹脂などの複合材料との接着技術は、異相界面およびその境界領域の技術である。さらに、劣化抑制技術は安全・安心社会に貢献するための重要技術でもある。ゴム・エラストマーのテクノロジーとは、上記の基本技術に関わるミクロ~ナノ~分子~電子レベルの階層構造や現象を解析し、制御する技術でもある。

Ⅱ.ものづくりのための分析 
 ものづくりとは、研究開発からはじまり原料・材料調達、生産、物流、マーケティング、販売、リサイクル、廃棄の過程であると考えられるが、分析技術はその全ての過程と関わりをもっている。
 ゴム・エラストマーの分析技術は、材料・製品開発の過程で生じる様々な事象・現象のメカニズムを解明するための有効な手段である。同時に、製造工程・物流・市場で起きる様々なトラブルの原因究明とその対策を実施するための重要なツールでもある。リサイクルや廃棄の過程での分析技術も環境問題の観点から重要である。
 ゴム・エラストマーの分析は、正にものづくりを支える重要基盤技術である。ものづくりのための分析には、目的にあった手法を選択し、正確かつスピーディーに測定を実施し、その結果を解析・考察し展開するプロセスが重要である。
(1)分析部門の役割と重要性
 ゴム・エラストマーの分析へのニーズは、益々高度化・多様化している。分析技術は技術開発から品質改善・トラブル解析まで請け負い、分析技術という側面から企業・経営を支えているとも言える。
分析のニーズとその背景にある市場・顧客の要求に応えるためには、分析の目的に応じた分析技術を適用・開発・応用していかなければならない。今後、益々分析部門の役割は大きくなるものと思われる。分析部門こそ、技術革新と価値創造のナビゲーターでなければならない。しかし、最新鋭の分析機器やコンピューター技術を揃えたとしても、「人」が育たないことには宝の持ち腐れである。分析部門における人材育成は重要課題である。
 このためには、分析技術に関する専門知識・技術の習得は当然として、分析技術と材料・製造に関する知識を融合させることが重要である。統計処理・品質管理・経理知識・コスト意識も必要である。分析部門のワークフローを図31)示す。
分析部門には、依頼される様々な技術課題を分析の課題に“翻訳”し、分析結果を総合的に解釈して依頼者にフィードバック可能な技術情報に“翻訳”する能力が必要である。また、技術を売り込みPRする意味で、営業的センスも必須であろう。
 分析部門も顧客満足度を追及し、お客様第一の考え方に徹しなければならない。「分析」とは、知的謎解きゲームでもある。複雑に入り組んだ課題を、様々な分析技術を用いて紐解いて行く。分析の目的・背景・関連情報を正確に把握し、分析の計画を立て、仮説の検証を進めて行く。
 経験に基づいた閃きと謎解き思考回路を中心に、柔軟にかつ機動的に、そして粘り強く作業を進めなければならない。最後に「解」を見つけた瞬間の喜びこそ、分析担当者が味わえる最大の醍醐味であろう。
(2) ゴム・エラストマー分析のニーズと特徴
① ゴム・エラストマー分析のニーズ
 ゴム・エラストマー分析のニーズは、原材料から製品まで、開発・製造・市場・リサイクルに渡る全てのプロセスから発生する。原材料では、ポリマー(分子構造/分子量分布)・フィラー(粒子径/凝集構造/表面特性)・添加剤(分子構造・不純物)などの様々な特性が分析される。
 練りゴムなどの中間材料では、組成比・分散状態・凝集などにより、工程の条件が評価される。最終製品では、相構造・分散・分配・移行・接着界面や異物・不良などが解析される。
市場で起きた故障解析では、組成変化・劣化解析・表面分析・破面解析・界面解析・モルフォロジー解析などにより、故障原因が究明される。また、リサイクルの過程では、組成・分子構造・架橋構造などの解析が必要である。
➁ ゴム・エラストマー分析の特徴
 ゴム・エラストマー材料は、多くの構成材料からなる複合材料であり、製造工程も長く、また、市場での変化も複雑である。
その特徴を次に示す。①添加物の種類が多く、それらが複雑な階層構造を有している。②微量の配合量で、物性を大きく左右するものが多い。③添加剤は、加工工程において物理的・化学的に変化するものが少なくない。④ポリマーは複雑な一次構造を持ち、それらがブレンドして用いられる。⑤構成材料同士が相互作用・結合するものがある。⑥架橋された材料は一般的に不溶性で、試料の前処理が難しい。⑦金属・繊維などの複合部材が多く、様々な接着界面が存在する。⑧表面形状・表面組成(深さ分布を含む)などの表面に関わる現象が多い。⑧製品の使用環境による劣化反応が複雑で不均一である。⑨複合材料であるが故に、破壊・破損のメカニズムが複雑である。⑩上述の現象が、ミクロ~電子の階層的レベルで発生する。
 以上の様な、複雑で不均一なゴム・エラストマー材料を分析することは容易ではない。ゴム・エラストマー材料を分析するためには、単一の手法ではなく様々な分析手法を用いて、様々な角度から解析を進める必要がある。
(3) 分析課題解決のPDCA 
 材料開発からトラブル解析まで、分析技術はあらゆるニーズに答えていかねばならない。様々な事象に対して、仮説の検証とソリューション提供が分析の使命である。ここで、分析課題解決のPDCAについて考えてみる(図41))。
P(Problem-finding:課題摘出・目的明確化。なぜその分析が必要か。分析結果をどう使う計画か。)
D(Disclose & Demonstration:ゴムの中の見える化と見せる化の同時推進。分析技術の勝負所)
C(Clear:メカニズム解明・課題解決。関連部門連携)
A(Acknowledge & Accumulate:効果確認・技術蓄積。互いに感謝、技術財産化)
 当然のことながら、D(見える化)とC(課題解決)を結びつける過程には、論理的思考回路に基づいた洞察力が重要であり、材料・製造技術と分析技術の融合を図る必要がある。
 これらのPDCAプロセスを通じ、技術力 を高めると同時に、人づくりにも繋がることになる。
(4)課題解決型ゴム・エラストマー分析の進め方
 様々なニーズ・目的に応じて、

 

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