接着と粘着の違いを学ぶ

2020年09月27日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH1号」に掲載されました。

シリーズ連載① ポリマーの接着と分析講座

№1 接着と粘着の違いを学ぶ

ジャパン・リサーチ・ラボ代表 奥村治樹

はじめに
 今回接着と分析をテーマとして、表面や界面の話題について連載を行っていくことになった。特に材料開発者としてのこれまでの経験をベースに書き進めて行く予定である。
 「接着」、「分析」という言葉については、モノづくりに携わる人でこの言葉を耳にしたことが無い、関わったことが無いという人は現代においてはほぼいないと言っても過言ではない。もちろん、開発等だけではなく身の周り、生活の中でという意味も含めてである。
 人類と接着との関わりは極めて長い。古くはニカワやアスファルトなどを用いた接着があり、その関係は数千年に及んでいる。それほど人類にとって接着とは無くてはならないものであると言える。特に現代社会において接着はほぼすべての領域において必須の根幹技術の一つである。
 たとえば、図1に示すのは接着が用いられている代表的な分野や用途などを示したものである。現代では、テレビなどに代表される家電製品に回路基板が当然のように用いられている。その回路基板は多層構造になっており、その複数層構成を実現しているのはもちろん接着技術である。また、工業材料、工業製品には必須の技術であり、最近では医療用の接着剤といったものも開発されて使用されている。また、自動車や飛行機からスペースシャトルのような宇宙産業においても接着の活用範囲は拡大する一方である。
 接着というとどうしても、二つの対象物をいわゆる接着剤で付けることをイメージするが、対象物自体にすでに接着技術が使われている場合が多い。最も代表的なものは図1にも挙げているコーティングや塗料である。これらは、基材に対してコーティング剤や塗料を塗るわけであるが、技術的には接着と分類することができる。すなわち、たまたま付けたいものと付けるものが同じだったというだけである。
 このように考えると、前述のように身の周りのほぼあらゆるものに接着技術が関わっていると言っても過言ではない。しかし、一方でこれほど付き合いが長くあらゆる場面で使用しているにもかかわらず、複雑で本当の姿がわかりにくいのが接着である。また、様々な研究開発が行われ、多くの理論やモデルが提唱されているが、まだまだわかっていないことが多いのも、この技術の特徴と言える。
 本連載では、そのような接着技術を理解するための考え方、方法について、そのなかでも欠かすことのできない分析を一つの軸として、まずは接着の定義も含めた基礎的な解説から、メカニズムの解明を中心に解説していく。

接着とは
 接着と人類、現代社会は深い関わりがあり、接着という言葉を知らない人はいないということはすでに述べた通りである。しかし、あまりにも身近にあり過ぎるということもあって、言葉の定義、技術的な定義についてはあまり気にせずに使われているというのも現実である。そこで、ここで改めて言葉の定義を確認すると、
「物体どうしが接合して離れないよう互いに力を及ぼし合う現象」(世界大百科事典)
「接着剤を媒介とし、化学的もしくは物理的な力またはその両者によって二つの面が結合した状態」(セメダインHP)と表現されている。前者はより広義の定義、後者はいわゆる多くの方がイメージするものに近い狭義の定義とも言えるだろう。いずれにしても、一般的な理解とそれほどかけ離れていないと考えられる。
 しかし、ここで一つ難しい問題がある。それは、「接着」と似た言葉である「粘着」という言葉の存在である。いずれも広義に接着であることは間違いない。では、両者の違いはどこにあるのか。これには、いくつかの考え方があるが、ここでは比較的一般的な定義を元にして解説することを試みる。まず、接着と粘着の違いについてのイメージを時間(横軸)と接着強度(縦軸)という視点で表現したものを図2に示す。
 接着のグラフを見ると、開始からしばらくはほとんど接着力がないか、極めて弱い接着力しかないのが接着の特徴であると言える。すなわち、接着は通常ある程度の時間が経過しないと本来の接着強度を発揮しない。しかし、いったん所定の時間が経過すれば粘着とは比べ物にならない強固な接着力を発揮するのも接着の特徴である。そして、その接着強度はもちろん無限時間ではないが、粘着よりもはるかに長い時間保持される。
 では、なぜこのような特徴が生まれるのか。それは、接着は通常何らかの反応を伴って発現する現象であることによる。たとえば、エポキシ接着剤のエポキシ反応やシアノアクリレート系のシアノ基の反応などが挙げられる。すなわち、これらの化学反応に代表される接着力の源となる反応が進行して、完了するための時間が接着力発現のために必要ということである。
 しかし、いったんその反応が完了すれば前述のように強固な接着力を得ることができる。ただし、それらの反応のほとんどは化学結合を形成するような不可逆的なものであることから、接着というプロセスは一回限りものである。すなわち、接着した後に何らかの理由で剥がしてしまえば、もう一度密着させたとしても再接着することはできない。これもまた接着の特徴の一つである。たとえば、この特徴を生かすことで封印などを行うことができる。
 一方で、粘着のグラフを見ると密着されたほぼその瞬間から最大の接着強度が発現されているのがわかる。これは、粘着が前述の接着のように何らかの反応を伴うものではなく、相互作用によって発現されるものである。相互作用の場合、その作用範囲内に対象物どうしが近接すれば即座に発現するので、接合の瞬間に最大値を示すのは当然のことである。
 しかし、この接着強度は接着とは異なり、時間経過とともに弱まっていくという特徴がある。これは、相互作用であるがゆえに、他の成分が相互作用末端(通常は水酸基などの官能基)どうしの間に入り込む余地があることから、それによって末端どうしの相互作用が弱まってしまうためである。また、剥きだしの官能基が関与するがゆえに酸化等の構造劣化を起こしてしまうこともその理由の一つである。しかし、接着強度の源が水素結合等に代表される相互作用であることから、一般的に繰り返し性があるというのも粘着の特徴である。これは、前述のようにその源となる相互作用が可逆性であるためというのは言うまでもない。この特徴を活かしたものがテープ類である。
 このように、一般的には接着という言葉で表現されることが多い両者であるが、その特徴は大きく異なると言える。ただし、連載では以降、便宜上一般則にならって両方の意味で「接着」という言葉を使用するものとする。
 次回は、接着がどのようなメカニズムで生み出されるのかを題材にする予定である。

【著者紹介】
奥村治樹
ジャパン・リサーチ・ラボ代表
東レ、パナソニック等で研究開発や開発部門マネジメント業務を行ってきた。幅広い分野での実務を行ってきた経験を活かし、現在はジャパン・リサーチ・ラボ代表として、研究開発を中心としたコンサルティング、人事研修やセミナー等による人材育成を行っている。

 

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