ポリマーアロイ総括|ポリマーアロイ

2020年08月06日

ゴムタイムス社

*この記事は「プラスチックスガイド」に掲載されました。
*図・表はPDFでご覧ください

カクテルは、そのエキゾチックな名称で、戦後の一時代に大いにもてはやされたものである。「スクリュードライバー」、「マティーニ」、「ハイボール」などが代表的なものである。最近では、ちょっと変ったもので「チューハイ」、「ウーロンハイ」、「玉露ハイ」などというものがあるがこれもカクテルの一種と考えられよう。
三省堂の国語辞典を引用すると「カクテル(米cocktail):①ジン、ウィスキーなどの強い酒をまぜ合わせた酒 ②略 ③まぜこぜ」などとある。
定義はともかく、ここで話題とするポリマーアロイは、なぜかこの「カクテル」に似ている。すなわち、両者ともに大事なことは、「ベースになるものの特徴を活かしつつ、それに何かを加えることにより、さらなる美点ないし特徴を与え、その物自体をより魅力的な物に仕上げる」技術ではないかと思うからである。ポリマーアロイは、このような特徴を持つため、強化材などによる複合化技術とともにプラスチックの材料開発技術に重要な役目を担っている。
ところで、アロイとは合金のことで金属屋さんにとってなじみのある用語である。彼らにはポリマーの世界でポリマーアロイという言葉を使うことには抵抗を感じる方もあると思う。しかし、ポリマーアロイは、前述したようにプラスチックに携わるものにとっては、重要な技術である。本稿ではこのようなポリマーアロイについて述べてみたい。

1.ポリマーアロイの定義

ポリマーアロイの定義は昔から種々の説があり、特に「ポリマーアロイとポリマーブレンドの相違」についての問題は多くの人が論議をしてきた。
外国の文献を読んでいても両者を使い分けている例がある。ところで、ポリマーアロイの定義について明確に規定したものかある。1981年に高分子学会が編集した『ポリマーアロイ』という単行本の中に記されている。ここでは、その定義を参照したい。
定義を述べている個所を引用すると、
「Shen-Kawaiの定義3にならってポリマーアロイ=高分子多成分系(multicomponent polymer system)と定義する。図1にここで言うポリマーアロイの内容を明らかにするために、高分子を基礎とした種々の材料を示した。
つまり、ポリマーアロイ=高分子多成分系とは、髙分子を2種類以上含んだ多成分系を意味する。そのものは異種のポリマー成分間に化学結合が形成されているか否かは問わない。したがって、ポリマーアロイをより具体的に示すと異種ポリマー間に化学結合が形成されていないポリマーブレンド、相互貫通網目ポリマー(IPN)などから、化学結合が形成されているグラフト共重合体、ブロック共重合体までの広い範囲を包含し、ランダム共重合体、交互共重合体は除外される」とある。
この定義がもっとも広範囲なポリマーアロイを示すものである。

2.ポリマーアロイの歴史

図2にポリマーアロイの歴史を示す。ポリマーアロイの歴史が案外古いことがわかる。ABS樹脂は、ポリブタジエン(PBD)にスチレンとアクリロニトリルをグラフト重合したもので、典型的なポリマーアロイである。
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)系のポリマーアロイの第一号は1966年にGE(General Electric)社が上市した高衝撃性ポリスチレン(HIPS:PS/PBD系ポリマーアロイ)で変性した変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)である。GE社はそれより2年前に新しいエンプラとしてPPEを上市していたが、成形性が悪いという問題で市場開発が進んでいなかった。ところが、HIPSとのブレンドにより成形性とコストの問題をみごとに解決し、現在では代表的なポリマーアロイの一つになった。
PPEとPSのブレンドが成功した理由は、両者のSP値(Solubility Parameter)が特異的に一致し、相互に良く溶け合う相溶性ポリマーアロイであったためである。
その後、ポリマーアロイが一層脚光を浴びたのは、アメリカのデュポン社が1976年にスーパータフナイロン“Zytel”STを発表した時である。ナイロン66に無水マレイン酸で変性したエチレン-プロピレン-ジエン共重合体をブレンドすることによリ衝撃強度を大幅に改善することに成功した。同社は引き続き高衝撃ポリアセタール“Delrin”ST、高衝撃ガラス繊維強化PET“Rynite”SSTを発表した。後述するが、本来耐衝撃性の低い結晶性ポリマーがアロイ化技術により高衝撃化できることは大変衝撃的であった。この影響を受けて、結晶性エンプラメーカー各社が耐衝撃性の優れたアロイの開発に力を入れ、種々のグレードが開発された。
一方、GEは、1982年、PC/PBTアロイ“Xenoy”を発表し、自動車用バンパーに展開を図った。この材料が、エンプラ系アロイが自動車外板材料として注目されるきっかけをつくった。
ホンダは1983年にホンダバラードCR-XのフロントフェンダにPC/ABSアロイを採用した。PC/PBTやPC/ABSは荷重たわみ温度が高くないので、塗装はオフラインで行う必要があった。
さらにGEは1985年オンライン塗装可能な耐熱性を有するPA/PPE系アロイ“Noryl”GTXを発表した。
このグレードは、日産のBe-1などの外板部品、ホイールキャップなどにその特徴を活かして採用された。
最近のポリマーアロイの話題は各鐵プラスチックと液晶ポリマーの系である。この系では多くの検討がなされ、上市されたグレードもあり、今後の動向が注目されよう。

3.ポリマーアロイで重要な関連事項

 

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