住友化学、ブリヂストン 内閣府「インパクト」で研究成果発表

2018年06月28日

ゴムタイムス社

 自動車の軽量化や強靭化、省資源化などに貢献する「タフポリマー」が実用化に向け着実な歩みを進めている。住友化学とブリヂストンは6月25日、都内で説明会を開き、内閣府が主導する革新的研究開発促進プログラム「ImPACT(インパクト)」の1つ「超薄膜化・強靭化『しなやかなタフポリマー』の実現」での研究成果を発表した。

 インパクトの一つ「しなやかなタフポリマーの実現」では、伊藤耕三プログラム・マネージャー(東京大学大学院教授)が中心となり、しなやかなタフポリマーと、それを用いたコンセプトカーの実現を目指している。

伊藤耕三プログラム・マネジャー

 同プログラムは、住友化学、ブリヂストンの他に、旭硝子や三菱ケミカル、東レの5社が参画。住友化学は車体構造の強靭化・軽量化を図るポリマーの開発、ブリヂストンはタイヤの薄ゲージ化により軽量化・省資源化につながるタイヤの開発を目指し、それぞれのテーマに沿った研究を進めている。

 また、これら材料の基礎・基盤技術では、企業と大学の研究機関が共同研究を行うとともに、スプリング8や京コンピュータを駆使し検証を行う産学官連携で研究開発を進めるのもインパクトの特徴である。

住友化学
軽くて頑丈な透明樹脂を開発
 住友化学が伊藤プログラムで開発した「軽くて頑丈な透明樹脂」は、透明プラスチックのポリメタクリル酸メチル(PMMA)をベースに開発したもので、高透明性でありながら高剛性(たわみが小さい性質)と高タフネス(割れにくい性質)を兼ね備えている。
 会見で透明樹脂について説明した笠原達也住友化学石油化学品研究所グループマネージャーは「透明樹脂を自動車の前面窓やルーフ部材に適用すると、金属や無機ガラスに比べて、視界確保による安全性向上、開放感のある空間の実現、軽量化による省エネ化といった新たな付加価値が見込める」とし、「軽量化については、ルーフ部材に適用した場合、鋼板重量の4割、ガラス重量の6割の削減効果が期待できる」と紹介した。
 同社は透明樹脂の研究開発を進めるにあたり、分子レベルでの破壊挙動の解明に取り組んでおり、そこで得られた知見を分子・材料設計や高次構造設計に反映させてきた。
 その結果、曲げ弾性率は延性破壊を示す従来の透明材料に比べて約1・6倍、耐衝撃強度に関しては、脆性破壊を示す従来の透明樹脂に対し10倍以上という高剛性・高タフネス透明樹脂の開発に成功した。
 今後の展開については、自動車用部材など大型成型品への採用に向けさらなる具現化を図るとともに、高剛性・高タフネスである透明樹脂の特長を生かし、ディスプレイ材料など幅広い分野への応用を目指していくとしている。

笠原達也住友化学石油化学品研究所グループマネージャー

住友化学が透明樹脂を用いて開発したリアウインドウ(プロトタイプ)

 

ブリヂストン
低燃費と高強度を両立したゴムを開発
 ブリヂストンが同プログラムで開発した「低燃費性と高破壊強度を両立したゴム複合体」は、タイヤの省資源化と低燃費性能の貢献にするゴム材料。今回開発した新しいゴム材料は、ダブルネットワークと呼ばれる構造を用いることで、さらなる高強度化を目指し開発を進めてきた。

 このダブルネットワーク構造は、同プログラムに参画する北海道大学のグン教授がタフポリマー化の手法として提唱してきた原理。ゲル材料などで劇的な強靭化の効果が実証されていたが、これまでゴム材料に適用されたケースはなかったという。

 そこで同社では、特殊に分子設計したネットワーク成分とプロセスコントロールでダブルコントロール構造を実現した。これにより、タイヤの燃費特性に寄与する材料物性の向上と耐き裂進展性(強度)という、従来技術ではトレードオフの関係にあった材料の性質を高い次元で両立させた。

ダブルネットワーク構造を取り入れたゴム複合体の概念図および製造プロセス

 

 この結果、タイヤの燃費特性に寄与する材料物性を15%向上するとともに、き裂進展に対する強度を5倍に向上した、革新的なゴム複合体を実現した。

 また新しいゴム材料は、同社が同プログラムでの研究成果として2016年に発表したゴム複合体と比べても、燃費特性に寄与する材料物性を10%向上

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