大阪大学とダイセルは8月24日、バッテリー無しで半永久的に作動する長距離無線のひずみ・ガスセンサーを開発したと発表した。
大阪大学大学院工学研究科の濵名基行さん、荻博次教授らの研究グループは、ダイセルとの共同研究により、無線で、半永久的に作動する、高感度のひずみセンサーおよびガスセンサーを開発した。
研究グループは、「水晶」という圧電物質を使用したセンサーと電磁波送受信装置を新規開発し、50mを超える距離を無線でつなぐことで、センサー側にバッテリー等による給電を一切必要とせず、高感度のひずみやガス濃度を計測することに成功した。
この技術を用いることで、これまでのセンサーでは成し得なかった、「長距離無線」、「バッテリー不要」、「高感度」を兼ね備えた計測が可能となる。
同研究成果は、老朽化が加速する社会インフラ構造物等の健全性確保においてパラダイムシフトを引き起こし得る「常時モニタリング」を可能とする革新的技術となることが期待される。
同研究成果は、米国科学誌「Physical Review Applied」オンライン版に8月25日に掲載される。なお、同論文は、編集部により注目論文として「Editors’ Suggestion」に選定された。
研究の内容は以下の通り。
水晶マイクロベルの共振振動を用いたひずみ・ガスセンサーを開発した。ベルの音色(あるいは共振周波数)は様々な要因によって変化する。研究グループは、力(チカラ)センサーおよびガスセンサーの原理を提唱した。つまり、外力やガス吸着によってベルを変形させ、これによる共振周波数の変化を測ることで、力やひずみ、ガスを定量する。
圧電体である水晶は、振動電場を加えると、同じ周期で機械的に振動する。通常は、水晶板の両面に電極を付着させておき、その電極間に交流電圧を加えることで、水晶内に振動電場を発生させ、水晶を振動させる。この原理は、すでに多くのデバイスに利用されており、身近なものでは時計(クォーツ時計)に利用されている。この従来法は有線計測となる。しかし、水晶に振動電場を与える方法は、電極を使用しなくても電磁波を送ることで可能となる。電磁波には電場成分が含まれていることから、電磁波の周波数を水晶マイクロベルの共振周波数と一致させることによって、遠方から水晶マイクロベルを共振させることができる。
さらに、電磁波による励振を停止しても、水晶マイクロベルはしばらくの間(1千分の1秒程度)鳴り続けるが、この間に水晶から機械的共振と同じ周波数の電磁波が放射される。この電磁波を受信してその周波数を測ることで、遠方から水晶マイクロベルの共振周波数を計測することが可能となる。研究グループは、独自に開発した無線計測装置とMEMS水晶マイクロベルセンサーによって、50mを超える距離において、水晶マイクロベルの共振周波数を、0・0001%以下の精度で計測することに成功した。
以下、測定法の概要となる。
信号発生器から1/1000秒程度の時間だけ、電磁波を八木・宇田アンテナから遠方のセンサーに向けて放射する。センサーには、数cm程度の拡張アンテナを取り付け、これにより電磁波を受信して、内部の水晶マイクロベルに送る。電磁波を受けた水晶マイクロベルは鳴り響く。電磁波が停止した後も、水晶マイクロベルは1/1000秒間程度振動を継続する。この間に、振動の周波数と同じ周波数の電磁波を放射する。この電磁波を、受信用の八木・宇田アンテナによって受信し、信号処理によって、振動の周波数を記録する。これらを繰り返すことで、1秒間に500回程度の頻度で共振周波数を計測することができる。(つまり、構造物の振動としては、100ヘルツ程度の振動まで計測可能となる。)電磁波送受信装置、センサー、解析プログラムなどは全て独自に開発した。
また、チップの内部には、面内寸法が2mm角程度で極薄の水晶マイクロベルが埋め込まれている。その厚さは食品用ラップと同程度(10μm程度)となる。本来、水晶はガラスのように割れやすいが、非常に薄いとしなやかに曲げることができる。この特性を活かして、センサーを測定物に接着剤で貼り付けて、センサー全体を測定物とともに変形させ、内部の水晶がその変形に応じてしなやかに曲げ変形を起こすようなセンサー構造を考案した。その結果、50m以上離れた位置からでも、構造物の変形量(ひずみ量)を計測することに成功した。
また、水晶マイクロベルの上面に、パラジウム合金を成膜して、水素ガスを検出する実験にも成功した。パラジウム合金は水素ガスに晒されると、水素を取り込み、体積が膨張する。その結果、センサー内の水晶マイクロベルが曲げ変形を起こす。水晶マイクロベルが曲がると共振周波数が変化するため、共振周波数の変化量から吸蔵した水素量がわかり、その結果、環境中の水素ガス濃度がわかる。この手法により、数十m先の環境の水素ガス濃度を、無線かつバッテリー無しで計測することにも成功した。
同研究の手法により、社会インフラの健全性の常時モニタリングが可能となる。また、センサーから常に送られてくるデータとAI解析を融合することにより、計測対象はもちろん、それ以外の情報(例えば、鉄道の橋梁に対する検査の場合、通過する列車の健全性など)が得られる可能性もある。安価な水晶から作製することのできるセンサーであり、国土強靭化計画にも貢献が期待される極めて有用な技術となる。


