旭化成らが高電子移動度トランジスタを実現 耐圧性能、低抵抗化など向上

2025年12月12日

ゴムタイムス社

 旭化成は12月9日、名古屋大学未来材料・システム研究所の須田淳教授、天野浩教授らと同社の研究グループが、窒化アルミニウム(AlN)基板上にコヒーレント成長させたAlN/GaN/AlN高電子移動度トランジスタ(HEMT)を実現し、従来のGaN HEMTと比べ2倍以上の耐圧性能、低抵抗化、そして電流コラプスの抑制を実証したと発表した。
 同成果は、通信・レーダー向け高周波デバイスの飛躍的な性能向上に直結する重要なブレークスルーとなる。
 同研究グループはこれまで、20nmのGaNをAlN上にコヒーレント成長させる革新的な結晶成長条件を見出し、世界で初めて有機金属気相成長(MOVPE)法によりAlN(9nm)/GaN(12nm)/AlN HEMTを実現した。
 同研究では、結晶成長条件とデバイスプロセスの改善により、当初高かったデバイスの抵抗を二桁低減し、従来のGaN HEMTと同等水準の抵抗値を実現した。また、従来構造に比べて2倍以上の耐圧性能をもつことを実証し、AlN/GaN/AlN構造の高いポテンシャルを示した。加えて、従来のGaN HEMTで課題となっていた電流コラプスを抑制し、安定動作を可能にした。これにより、信頼性の高い高周波・高出力デバイスの実現に大きく前進した。同成果は、次世代の通信やレーダーシステムにおける高周波・高出力デバイスの性能向上に大きく貢献することが期待される。
 同研究成果は、本学未来材料・システム研究所旭化成次世代デバイス産学協同研究部門の李太起(リテギ)特任助教により2025年12月8日に世界トップクラスの半導体デバイスに関する国際会議で発表された。
 同研究のポイントは以下の通りとなる。
 1点目は量産性に優れたMOVP法により、窒化アルミニウム(AlN)基板上にコヒーレント成長させたAlN/GaN/AlN高電子移動度トランジスタ(HEMT)を実現している点となる。
 2点目は従来のGaN HEMTと比べ、同等水準の抵抗値を実現しつつ、2倍以上の耐圧性能を達成している点となる。
 3点目は従来のGaN HEMTで課題だった電流コラプスを抑え、安定動作を実現している点となる。
 4点目はCrystal ISの高品質AlN単結晶基板、同社と名古屋大学により開発した革新的結晶成長技術、そして名古屋大学エネルギー変換エレクトロニクス実験施設(CーTEFs)の先端デバイス試作環境の融合により、産学連携でブレークスルーを実現している点となる。

 同研究では、GaN成長時のGa原料を変えることで結晶中の炭素不純物を大幅に低減し、シート抵抗を2000Ω/sqから507Ω/sqへ約4分の1に低減した。さらに、AlNバリア層のエッチング工程を導入することで、コンタクト抵抗を64Ωmmから2・4Ωmmへ約25分の1に低減した。これにより、デバイスの特性オン抵抗は2桁低減し、従来のAlGaN/GaN HEMTと同等水準に到達した。また、耐圧性能の指標である絶縁破壊電界は最大2MV/cmを記録し、従来のAlGaN/GaN HEMTの値(1 MV/cm以下)の2倍以上を達成した。
 表面保護膜の導入により電流コラプスが完全に抑制され、表面欠陥の影響が低減されていることが確認された。電流コラプスは結晶内部の欠陥にも起因するため、この結果はAlN基板上のAlN/GaN/AlN構造が極めて高い結晶品質を有することを示している。これらの成果は、高周波デバイスの高性能化に向けた重要なブレークスルーとなる。

名古屋大学未来材料・システム研究所のエネルギー変換エレクトロニクス実験施設

名古屋大学未来材料・システム研究所のエネルギー変換エレクトロニクス実験施設

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