東洋紡は10月17日、100%植物由来のポリ乳酸樹脂を原料とする光学フィルムの試作品を新たに開発し、2025年9月よりサンプル提供を開始したことを発表した。ポリ乳酸の持つ高い光透過性や低い屈折率といった光学特性を、独自の二軸延伸技術により最大限に引き出した。広範な波長域の光を透過する性質を訴求することにより、半導体の製造工程やディスプレーの検査工程用途などの製造プロセス向け光学フィルムとして展開を進め、早期の採用を目指す。
ポリ乳酸は、植物から得られるでんぷんや糖類を原料として製造される100%バイオマス由来の樹脂である。原料となる植物が生育過程で吸収するCO2と、廃棄や分解時に発生するCO2が相殺されることから、カーボンニュートラルに貢献するサステナブルな素材として注目されている。また、ポリ乳酸は、紫外線・可視光線・赤外線といった広範な波長域の光を透過する優れた透明性や、フッ素樹脂に次ぐ低屈折率などの光学特性を持つため、光レーザーを利用する製造プロセスに適した素材である。こうした特性を活かし、半導体やディスプレーの製造工程における光学的な検査・処理用途への展開が期待されている。
一方、こうした工業用途で使用するには、耐熱性や機械強度、加工時の寸法安定性などが求められる。加えて、汎用のPETフィルムが持たないポリ乳酸特有の光学性能を安定して発現させるために、透明性や屈折率に影響を与える結晶化や分子配向を精密に制御する高度な加工技術が必要とされる。そのため、一般的な加工条件下では、ポリ乳酸の光学特性が損なわれやすいため、性能を十分に活かしたフィルム化が難しいという課題があった。
これらの課題に対し、同社は長年培ってきた独自の二軸延伸加工技術と、フィルム内部に粒子を含まない構造設計技術を活用することで、工業用途に必要な耐熱性や機械強度と、光学用途で求められる優れた透明性・低屈折率を両立させたポリ乳酸フィルムを新たに開発、このほどサンプル提供を開始した。
新開発の本フィルムは、二軸延伸加工技術により、従来のポリ乳酸フィルムと比べて引張強度や寸法安定性といった機械特性の大幅な向上を実現した。また、内部に粒子を含まない独自構造とフィルム表面のコーティング処理により、高透過・低屈折率という光学特性だけでなく、優れた表面平滑性や他素材との接着性を付与することも可能となる。
これらの特性により、製造工程で使用するレーザー装置への適用範囲が拡大するため、半導体製造工程におけるベースフィルムとして使用した場合、短波長・高エネルギーの紫外線を用いる加工プロセス作業の高効率化や仕上がりの高精細化が期待できる。また、液晶画面の保護フィルムとして使用した場合には、画素欠点などを発見するための可視光線を用いた検査精度の向上にも貢献が見込める。さらに、本フィルムの屈折率は、一般的な素材の中でも特に低いとされるガラスに近い水準であるため、飛散防止用途などでガラスと貼り合わせて使用する際にも視認性を損なうことがない。
同社は、液晶パネルを構成する偏光板用保護フィルム「コスモシャインSRF」や、積層セラミックコンデンサの製造工程用離型フィルム「コスモピール」など、高い市場シェアを誇る工業用フィルム製品を展開している。今後、光学特性に優れた新開発のポリ乳酸フィルムを本格的に販売推進することで工業用フィルム製品ラインアップのさらなる拡充を図り、幅広い顧客ニーズに対応できるよう努めていく。


