製造業は今、かつてないほどの大きな転換期を迎えている。少子高齢化による労働人口の減少、そして熟練技術者の引退が進む中、現場では技術の継承が喫緊の課題となっている。特に射出成形の分野では、成形条件の設定や不良対策などが経験則に依存しており、技術の属人化が深刻化している。こうした状況に対し、松井製作所は「AIを使った技術伝承」という革新的なアプローチで課題解決に挑んでいる。
同社が展開するAI成形支援システム「AI Solutions」は、成形品の初期条件出しをAIが自動で調整し、最適な成形条件を構築するソフトウェアだ。使用する樹脂の種類、金型の容積、成形品のサイズ、ランナーの長さなど、基本情報を入力するだけで、クラウド上のAIが初期条件を提案してくれる。仮に条件がうまくいかなくても、不良の種類を選択することで、どのパラメータをどう変更すればよいかが提示される。このプロセスを繰り返すことで、まるでベテラン技術者と対話しているかのような感覚で、精度の高い条件出しが可能となる。
販売促進を進める中で、ユーザーからはセキュリティ面への懸念も寄せられたという。クラウド管理に対する不安を解消するため、同社はローカルネットワークで完結するアプリ版の開発にも着手。工場内サーバーにデータを留める運用形態を可能にし、情報管理の安心感を提供していきたいとしている。
さらに、AI Solutionsは市場のニーズに応える形でアップデートを実施。新たに「仮想製品検査」と「成形機データ分析」の機能が追加された。仮想製品検査では、製品の重量を射出時の樹脂圧力からリアルタイムで算出し、設定された閾値内に収まっているかを全数確認することで、品質のばらつきを抑制。不良の兆候を早期に検知できるため、目視検査やサンプル抽出の必要性が減り、不良品の流出防止にも貢献している。加えて、成形サイクル内で保圧時間を自動調整する機能により、製品の重量ばらつきを指定範囲内に抑えることが可能となり、従来のように不具合発生後に条件を都度見直す必要がなくなった。これにより、作業者の負担が軽減され、安定した成形と高い作業効率、品質の両立が実現している。
成形機データ分析では、AIを活用したクラウド連携型の生産情報システムが導入された。クラウドに接続された成形機からリアルタイムで生産情報を取得し、可視化することで、現場の状況を常に把握できるようになった。これにより、トラブルの早期発見や迅速な対応が可能となり、現場の生産性向上に寄与している。
今後、同社は展示会やウェビナーなどを通じて、より多くの現場関係者にこの技術の有用性を伝えていく方針だ。AIによる技術伝承という新しい価値観を広めることで、製造業の未来に新たな可能性を切り拓こうとしている。

AI成形支援システム
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