住友ゴム、東北大学と共同で成功 ゴムの伸長結晶分布を可視化

2025年09月04日

ゴムタイムス社

 住友ゴム工業は9月3日、東北大学多元物質科学研究所の陣内浩司教授、宮田智衆准教授、渡邉大介博士(元大学院生)、狩野見秀輔助教、陳楷研究員、同大学大学院理学研究科の川勝年洋教授らと共同で、ポリイソプレンゴム(天然ゴムと同じ化学構造をもつ合成高分子)内部での伸長結晶の分布をナノメートルスケールで可視化することに成功したことを発表した。

 一般的にゴムを大きく変形させるとポリイソプレン分子鎖が引き延ばされて伸長結晶化が起こり、それがゴムの補強性に寄与すると考えられてきた。しかしながら、この伸長結晶の空間分布を直接観察する技術がこれまでになく、伸長結晶の分布のコントールと補強性向上のヒントが得られないことが課題であった。今回、「試料を引っ張りながら透過型電子顕微鏡法で観察する技術」と「スポット径がナノメートルサイズの電子ビームを走査しながら多数の電子回折図形を取得する技術」の2つの先端技術を複合的に用いることで、伸長結晶分布の可視化を実現した。
 今後、この研究成果をタイヤゴムの耐摩耗性能や耐破壊性能の向上につなげていく。

 19世紀後半にタイヤに天然ゴムが使われ始めて以来、天然ゴムは現在も主要なタイヤ原材料としての位置を占め続けている。合成ゴムと比較して、天然由来で環境負荷が少なく、かつ耐摩耗性能や耐破壊性能に優れる点も天然ゴム特有の性質である。

 天然ゴムは大きく変形させると伸長結晶化する事が知られており、この結晶化部分は硬くなる。この伸長結晶化は、天然ゴムのき裂進展や破断に大きく影響すると考えられている。しかし、これまでに用いられてきた広角X線回折法では伸長結晶化に関する平均的な情報は得られるものの、ゴム中のどこで伸長結晶化が起こるのかを直接観察することは困難だった。

 今回の研究ではポリイソプレンゴム(天然ゴムと同じ化学構造をもつ合成高分子)とシリカ配合ポリイソプレンゴムを対象とし、二つの最先端TEM技術を複合的に用いることで、伸長結晶化がどこで起こるのかをナノスケールで可視化することに成功した。シリカ配合ポリイソプレンゴムの内部ではシリカ粒子が凝集した凝集塊が存在するが、今回の観察の結果から伸長によって凝集塊が伸長方向に配列し、その配列構造に沿って伸長結晶化が起こっている事が分かった。EVの普及による車両重量増加や環境負荷低減の観点から、タイヤの耐久性向上が求められている。今回の技術により、さらなる安全性と環境負荷低減への貢献を目指す。

 同社は長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」において、強みである「ゴム・解析技術力」と「ブランド創造力」によって「ゴムから生み出す『新たな体験価値』をすべての人に提供し続ける」ことを目指している。今回の成果は、産学連携により「ゴム・解析技術力」を強化したものである。

 なお、本研究成果は国際学術誌「Nature Communications」に、9月2日付で掲載された。

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