NEDOが世界初の技術 加速度センサーの応答特性を正確に評価

2023年05月31日

ゴムタイムス社

 NEDOは5月29日、同社の「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」の一環で産業技術総合研究所が、ビル、橋などインフラの劣化診断に用いられる微小振動(1mm/s2程度)に対する加速度センサーの応答特性を正確に評価する技術を、世界で初めて確立したと発表した。
 本技術では、高性能防振機構や独自の信号処理技術を組み込んだ「低雑音レーザー干渉式振動応答評価装置」を開発することで、加速度センサーの正確な応答特性評価を可能にした。
 正確に評価した加速度センサーを使うことで、微弱な振動下でのインフラの振動特性を正確にモニタリングできるので、振動計測に基づいた劣化診断技術の信頼性向上につながる。
 ビルや橋、道路など社会インフラの老朽化は現在、国内だけでなく世界的にも大きな社会問題となっている。日本では高度経済成長期に建造された築50年を超すインフラが多く、メンテナンスにかかる費用は2018年時点で約5・2兆円、2048年には約12・3兆円にのぼると推計されている。
 効率的にメンテナンスを行い、こうした負担を軽減するためには、従来の手作業・目視による点検だけでなく、IoTセンサーなどを用いてインフラの劣化を早期かつ効率的に検知する劣化診断技術が不可欠となる。
 そのような技術の一つとして、加速度センサーでインフラの微小な常時微動をモニタリングし、部材の劣化・損傷に伴って生じる振動特性の変化を検知する方法がある。
 モニタリングには高精度なサーボ加速度計や安価なMEMS加速度計などさまざまなタイプの加速度センサーが用いられるが、それぞれの応答特性(振動の大きさに対する加速度センサーの出力の大きさと遅延の周波数依存性)はセンサーによって異なる。
 使用する加速度センサーの応答特性を正しく分かっていないと、加速度センサーの出力値を実際の振動量に変換する際に誤差が生じてしまい、誤った劣化診断をしてしまう可能性がある。そのため、加速度センサーの応答特性を正確に把握することが必要となる。
 これまで加速度センサーの応答特性は通常、約102mm/s2以上の大きな振動を加えて評価しており、数十mm/s2を下回るような微小振動を測る場合にも応答特性は変わらないと仮定してきたが、信頼性が十分に担保されているとはいえない状況だった。
 特に近年利用が拡大しているMEMS加速度計では、高精度なサーボ加速度計に比べて加わる振動の大きさへの依存性が大きく、上記の仮定による誤差が生じやすい傾向にある。このような問題を解決するには、計測対象と同程度の微小な振動を加えて特性を評価することが望ましいが、数十mm/s2以下の微小振動に対する加速度センサーの応答特性を正確に評価する技術は確立しておらず、大きな課題だった。
 このような背景のもと同社の委託事業「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」の一環で、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、高性能な防振機構や独自の信号処理技術を組み込んだ「低雑音レーザー干渉式振動応答評価装置」を開発し、微小振動に対する加速度センサーの応答特性を正確に評価することに世界で初めて成功した。
 なお、本研究成果は、2023年5年29日に学術誌「Measurement Science and Technology」へ掲載された。
 今回の成果は、「低雑音レーザー干渉式振動応答評価装置」の開発と、「低雑音レーザー干渉式振動応答評価装置」の評価能力実証となる。
 「低雑音レーザー干渉式振動応答評価装置」の開発では、一般に加速度センサーの応答特性として、振動加振器で評価対象の加速度センサーを振動させ、そのときの加速度センサーの出力電圧信号と振動加速器の動きを測長するレーザー干渉計の出力信号を比較することで評価する。
 2つの信号からそれぞれの振幅を算出し、比を計算することで応答感度を求める。しかし、産総研が保有する世界最先端の振動応答評価装置でも地面の振動やレーザー干渉計の雑音が妨げとなり、参照信号の測定精度は10-2mm/s2から10-1mm/s2程度が限界だった。そのため約10mm/s2以下の振動に対しては相対的に測定誤差が数%を超えてしまい、正確な評価ができなかった。
 そこで今回、産総研は参照信号の測定精度を上げるための改良を行った。まず、振動応答評価装置の主な雑音源であった地面振動を抑えるために低周波防振台を導入したうえで、レーザー干渉計もホモダイン式からヘテロダイン式に変更し、評価装置起因の参照信号の雑音を低減した。さらに、振幅の算出に独自の信号処理を用いることで、雑音の影響を最小限に抑え、参照信号の測定精度を大幅に向上することに成功した。
 これらの結果、インフラ診断で重要な0・1Hzから数十Hzの全帯域で、従来性能を大きく超える10-2mm/s2以下の精度で参照信号を測定できるシステムを開発した。
 これにより、従来技術では評価が難しかった1mm/s2程度までの微小振動に対しても、参照信号を正確に測定し加速度センサーの応答を評価できる技術を実現した。
 「低雑音レーザー干渉式振動応答評価装置」の評価能力実証では、開発した装置の評価能力を検証するため、加速度センサーの中でも高精度なサーボ加速度計の応答特性を1mm/s2と104mm/s2の異なる加速度で評価する実証実験を行った。
 サーボ加速度計の動作原理から、応答特性は加わる振動の大きさに関わらずほぼ一定であると期待されるため、開発装置を使い異なる加速度で評価したそれぞれの特性が一致すれば正しい評価ができていることになる。ビル、橋などの典型的な固有振動数にあたる0・1Hzから数十Hzの帯域における応答特性が特に重要なため、同帯域での評価を行った。
 その結果、従来技術で確立している104mm/s2での評価と、今回開発した1mm/s2での評価で得られた応答特性は一致することを確認した。このことから、従来技術では検知できなかった微小振動でも応答特性を正しく測定できることを実証した。
 開発した装置を用いることで、MEMS加速度計などのあらゆる加速度センサーに対して、センサー自身の雑音が妨げとならない範囲で微小な振動まで応答特性を評価することが可能となる。これにより加速度計の計測精度が担保され、インフラ診断の信頼性向上につながることが期待される。
 今後の予定として、産総研は本事業の中で、今回開発した微小振動に対する応答特性評価に加えて、加速度センサーの周囲環境も実際の計測時に近くなるように温湿度を変えながら応答特性評価を行う技術の開発を進める。
 これによりインフラ診断のあらゆる測定条件に対応した応答特性評価が可能な体制を整備し、インフラの劣化診断技術のさらなる信頼性向上に貢献する。
 同社は、本技術開発をはじめ、既存のIoT技術では実現困難な超微小量の検出や過酷環境下での動作、非接触・非破壊での測定などを可能とする革新的センシングデバイスを世界に先駆けて開発するとともに、革新的センシングデバイスの信頼性向上に寄与する基盤技術開発を支援する。

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