量子ビーム分析アライアンスを設立 産業界の人材育成に注力

2021年10月25日

ゴムタイムス社

 産業界における量子ビーム利用者の育成と多種の量子ビームを用いた産業利用・成果の最大化を目指した産業施設連携組織「量子ビーム分析アライアンス」(代表:竹中幹人京都大学化学研究所・教授)が5月に結成された。

 量子ビーム分析アライアンスでは、京都大学研究者を中心とした学術研究者、クラレ、住友ベークライト、住友ゴム工業、TOYO TIRE、JSR、日本ゼオン、三井化学、三菱ケミカルなど高分子・ソフトマター業界を中心とした産業界16企業、大型の量子ビーム施設の3者が連携した。

 設立の経緯について、竹中教授がフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体で10年前から運営に携わっていた経験から、量子ビームを利用する技術者が不足していたことや、各施設の利用の手続きが煩雑であったことが迅速な研究開発の妨げの一因になっていると考え、量子ビームの利用技術を持った研究者の育成や、複数の量子ビーム施設のワンストップでできる利用の仕組みの構築が必要だと感じたため、今回の量子ビーム分析アライアンスの設立に至った。

 竹中教授は「今まで、中性子小角散乱、X線散乱、X線イメージング、X線分光学等の各測定技術を講義している大学のカリキュラムなどは存在している。しかし、量子ビームを横断的に利用する研究者を育成するため量子ビームの測定技術を系統的に学ぶための講義は今までなく、量子ビームを一括して学べるシステムを構築したかった。この構築による産業界の技術者の教育を行うことより、様々な量子ビームの測定技術を用いた分析による高度な材料開発への貢献が期待できる。さらに、最終的には量子ビーム分析技術によるビジネスが確立できるようにしていきたい」と述べている。
 上記の目標を達成するために、量子ビーム分析アライアンスでは、大型放射光施設「SPringー8」における京都大学専用ビームライン「BL28XU」、大強度陽子加速器施設物質・生命科学実験施設「JーPARC MLF」、研究用原子炉「JRRー3」等の量子ビーム施設を利用する。また人材育成のための基礎科学に基づいた実地教育や産業界の共通課題解決のための量子ビーム利用技術の高度化の推進を行うことで、量子ビームを用いたイノベーションの創出を目指していく。

 2021年度は、フィージビリティ期間として、すでにJーPARC MLFにおける中性子反射率測定の共同実験や技術研修を実施しており、参加企業メンバーの量子ビーム利用技術の習得を目指した活動を行っているほか、オンライン授業の配信も始めている。

 今後の展開として2022年度には、量子ビーム分析アライアンスによる寄附研究部門「量子ビーム研究部門」(仮)を京都大学に創設することを計画している。
 量子ビーム分析アライアンスでゴム材料の研究について、竹中教授は「社会全体がリサイクルなどのサステナブルに意識が高まっている。ゴム材料も、材料の分解や破壊の構造を研究する必要性がより出てくるだろう。そのためにも、量子ビームやX線を使った実験が重要になってくる。材料を研究する上で、材料自体の化学種や構造を把握していくことがますます求められてくるのではないか」と、ゴム材料にも量子ビームが十分に研究に活かせると考えている。
 今後の方向性として、竹中教授は「持続可能な社会の実現に向けて、量子ビームなどの分析技術は欠かせない。量子ビームを利用する人材育成を行うことにより、産業界の人材育成につながっていくようにしていきたい」と抱負を語った。

6月に開催された共同研究のようす

 

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