総論 マルチマテリアル化対応の異種材料接着技術

2020年09月30日

ゴムタイムス社

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
*記事で使用している図・表はPDFで確認できます。

特集1 次世代に向けた接着・接合技術と最近の動向

マルチマテリアル化対応の異種材料接着技術

エーピーエスリサーチ 若林一民

1 はじめに
 多くの産業分野で、接合部の応力緩和を目的にした金属とゴムの接着、構造強度を落とすことなく構造体全体の軽量化を目的にした金属とプラスチックの接着など、異種材料の接着が時代の要請である。
 これら時代の要請に応えるために、ここでは金属とゴムの接着、金属とプラスチックの接着に限定して、最新接着技術動向を紹介する。

2 接着に必要な被着材の性質を知る
接着剤を設計、選定する際に重要なことの一つに被着材の性質を知ることがある。特に接着面の状態および性質は重要である。
2.1 金属1)
 接着の対象になる金属の種類は、鉄およびその合金、アルミニウムおよびその合金、マグネシウムおよびその合金、銅およびその合金、耐熱合金、金属メッキ表面などである。
 これらの金属の中で鉄およびその合金、アルミニウムおよびその合金は比較的接着しやすいが、銅およびその合金などの非鉄金属は接着しづらい。これは調整後直ちに生成する弱い酸化層のためである。またステンレス、真ちゅうなどの合金類も接着しづらい金属である。
 金属は金属原子が立方体、六方体などの結晶構造からなり、表面金属原子の一方は内部の金属原子と結合するが、他方はフリーの高エネルギー状態で存在する。それゆえ大気中のガス(CO2、N2、O2)や水分、油脂類を吸着しやすく、それらの分子膜でおおわれている場合が多い。
 金属接着における接着トラブルの第一は、表面を覆っている異物分子膜のために接着剤の「ぬれ」が悪くなることである。対策としてはサンドペーパーなどによる乾式研磨あるいは化学研磨および電解研磨などの湿式研磨で取り除くことである。
 表面処理によって形成される緻密な酸化膜は、接着剤と被着材界面の分子間力や水素結合力を良好ならしめて強固な接着強さを与える。
金属接着での第二のトラブルは、金属と接着剤皮膜の熱膨張係数(線膨張係数)差や接着剤の硬化収縮により接着界面にストレス(熱エネルギー)が蓄積されて、経時後に接着界面での破壊が起こる。
 それゆえ、接着剤皮膜は高弾性であると同時に、硬化収縮や熱膨張係数により生じる内部応力を緩和し、かつ高強度を有する強靭性を要求する。
2.2 ゴム2)
 接着の対象になるゴムは未加硫ゴムと加硫ゴムである。未加硫ゴムの接着例は、 防振ゴム、 ゴムライニングのように金属と未加硫ゴムの加硫接着(加硫工程で接着が行われる)やタイヤ、 ベルト、ゴム靴などのように繊維と未加硫ゴムの加硫接着である。
 これらの接着に使用される接着剤は未加硫組成物からなり、接着剤自体が被着材の未加硫ゴムの熱加硫工程を利用して加硫するように設計されている。あるいは接着剤を使用せず、被着材両者に親和性を持つプライマーを施し、未加硫ゴムの加硫工程での接着を相乗するように設計されている。
 通常は加硫ゴムの接着である。代表的な原料ゴムは天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ブチルゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム (EPDM)などで、加硫剤、加硫促進剤などのゴム用配合剤が添加されて加硫(プラスチックでいう架橋)されたものである。
 ゴムの接着の難易はその極性によって大きく左右される。ニトリルゴムやクロロプレンゴムのように極性基を持つゴムは極性接着剤で比較的容易に接着できる。
 天然ゴム、SBR、ブチルゴム、 EPDMなどの非極性ゴムは極性接着剤によるぬれが悪く、機械的および化学的な表面処理を行って接着性を向上させる必要がある。 表1に各種ゴムのガラス転移温度とSP値(Solubility Parameter)3)、表2に表面処理方法と接着剤選定の基準4)を示した。
2.3 プラスチック
 プラスチックには熱硬化性のものと熱可塑性のものがある。熱硬化性のものは架橋により三次元化した構造で、熱や溶剤に不融不溶である。熱可塑性のものは鎖状高分子が単に集合したもので、熱や溶剤によって溶融解しやすい。
プラスチック材料を接着するに際して、まずどのような接着方法で行うかを決定する。機械的固定、熱融着、溶剤接着、接着剤法のいずれかである。
 機械的固定は応力が一点に集中するために強度の弱い熱可塑性プラスチックには適用不可である。強度の強い熱硬化性プラスチックや熱可塑であっても結晶化密度が極端に高いエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックに限定される。
熱融着はすべての熱可塑性プラスチックに適用できるが、同種プラスチックの接着に適している。加熱源としてはヒートガンやバーナーが用いられる。プラスチックフィルム同士の場合には高周波を利用した溶着法(高周波誘電加熱、高周波誘導加熱)が有用である。
溶剤接着は溶剤に溶解するすべてのプラスチックを対象にする。一般にプラスチックと溶剤のSP値の近似したものは親和性が高く溶解しやすい。熱可塑性プラスチックの溶剤溶解性を左右するファクターは極性(SP値)と結晶性である。
 以上のことをまとめると極性が低く、結晶性の高いプラスチックは溶剤接着に不向きである。表3は汎用プラスチックの極性および適用可能な接着法についてまとめたものである5)

3.被着材の表面処理
 被着材表面処理の目的は被着材分子と接着剤分子が、分子間力、水素結合、化学結合の働く距離まで近付く、あるいは被着材表面の微細孔へ接着剤が入り込んでアンカー効果を発揮することである。そして、その手法は① 表面洗浄と② 表面改質である。
①表面洗浄…被着材表面の汚染物(ゴミ、埃、 吸着ガス、酸化物など)を取り除き、接着に適する正常な面にする。
②表面改質…表面の極性を変えて接着に適する表面極性に改質する。
 一般に接着界面の強さはファン・デル・ワールス力とよばれる分子間力、水素結合と被着材表面の微細部に接着剤が入り込んで発揮されるアンカー効果に負うところが大きい。
 被着材と接着剤の分子間で、この力が発揮されるためには、この力が発揮される距離にお互いが近づかなければいけない。この距離は分子間力で5Å(0.5nm)以下で、その結合力は1~5kcal/mol、水素結合で2~3Å(0.2~0.3nm)で、結合力は5~10kcal/molである。
3.1 金属の表面処理
 金属表面の油脂類、 弱い酸化被膜層は接着阻害物質である。実際の表面処理はこれらの接着阻害物質を溶剤脱脂やサンディングにより取り除き、表面処理液によるエッチング効果によって接着強さを増強させている。実際に行われる表面処理の方法は面あらし、錆とり、 脱脂、薬品処理などである。表4は金属表面処理の工法についてまとめたものである6)
 非構造用途の場合は, 薬品処理は行わず、 脱脂と必要に応じて錆とりおよびサンディングが行われる程度であるが、構造用では化学および物理処理を主体にした複雑な表面処理が行われる。
 サンディングは付着している酸化物などを機械的に取り除くことを目的にしており、研摩紙やサンドブラストの方法がある。砥粒、粒度の違いにより、多くの種類がある。砥粒にはアルミナ、グリーンカーボランダム、エメリー、ガラスビーズ、ジルコニア等が使用される。被着材の硬さを考えて選定される。
 構造接着強度を必要とするときは、陽極酸化処理が求められる。近年は物理的処理法として、プラズマ処理法やレーザー処理法が開発されている。
3.2 ゴムの表面処理7)
 ゴム表面を処理する手法の一つは、


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