技術・開発者インタビュー ダイセル・エボニック 六田充輝さん

2020年07月29日

ゴムタイムス社

技術・開発者インタビュー ダイセル・エボニック
テクニカルセンター所長 六田充輝さん

テクニカルセンターの六田所長

 イノベーションマネージメントを通じて技術や研究者の育成に注力

 エンジニアリングポリマー分野での”No.1″を目指すダイセル・エボニック(東京本社、東京都新宿区西新宿2-3-1)。同社のテクニカルセンターの六田充輝所長に、テクニカルセンターの概要をはじめ、製品開発する上での課題、研究・開発者の育成などを尋ねた。

 テクニカルセンターの歴史

 ─テクニカルセンターの概要を教えてください。

 テクニカルセンターに触れる前に、ダイセル・エボニックの歴史を振り返ると、1970年に㈱ダイセルと独ヒュルス社(現エボニック インダストリーズ社)との合弁会社としてダイセル・ヒュルスを設立しました(08年からダイセル・エボニックに社名変更)。設立以来、ポリアミド12樹脂ベースの高品質で優れた機能性樹脂を開発・販売、2007年からはスーパーエンプラPEEKをラインアップに加えて日本独自の製品を開発してきました。

 そのような背景のなか、テクニカルセンターは、まず1980年に技術部門がダイセルから独立し、当時のヒュルス社の専門になった後、さらに1988年に新製品開発部ができました。その年をテクニカルセンター元年として位置づけております。

 このテクニカルセンターは単なるトラブルシューティングやカスタマーサポートの役割だけではなく、技術・開発面でも大きな役割があります。とくに技術・開発面において、テクニカルセンターの初期は連続重合というナイロン重合の非常に画期的な重合方法がありますが、ダイセル・ヒュルスのテクニカルセンターが先鞭をつけた結果、この連続重合をドイツ人が引き受け大きなプラントに立てたという経緯があるほどです。

 テクニカルセンターでは、新しい接着技術の開発をしたり、様々な企業の研究開発部門と一緒に取り組んでいますが、自由な雰囲気のもとお互いが協力し合って取り組んでいる雰囲気があります。約30年の歴史を刻んでいるテクニカルセンターは現在、我々の歴史のなかでも最も活発的に活動しています。

網干工場とテクニカルセンターの航空写真

網干工場とテクニカルセンターの航空写真

 注力するビジネス・技術分野

 ─最近、力を入れている開発分野は何ですか。

 ビジネス分野で見ていくと、①自動車関連②スポーツや時計等肌に着けるライフスタイルに関係するもの③機能性フィルム④機能性パウダー⑤熱可塑性スーパーエンプラ「PEEK」という5つの分野に力を入れています。

 また技術面では、①接着接合②表面・界面③高分子の高次構造の3つの分野に注力しています。
 1つ目の接着接合は、とくに当社が行っているのは、接着剤なしでくっつけるというものです。現在、成功しているのがゴムと樹脂の直接接着です。たとえば、マラソン等のランニングシューズやリーガル社の紳士靴に採用されている、当社の複合フィルムRーCOMPO®(アール・コンポ)があります。このアール・コンポは、樹脂フィルムとゴムの接着に接着剤を使用しない「K&K技術」を採用しています。また、サッカーシューズ等で採用されているものもK&K技術を採用しています。これは、ナイロンの分子構造を工夫することでナイロンとTPUの界面での化学反応を利用した接着技術です。

 2つ目の表面・界面と3つ目の高分子の高次構造の共通しているテーマは制御技術です。2つ目の表面・界面は、接着接合とも隣接していますが、機能性フィルムや機能性パウダーの機能と深く関連しています。またこれを制御する点でいうと、3つ目の高分子の高次構造にも関連してきます。たとえば、プラスチックは熱可塑性樹脂のため、熱で溶けた後冷えて固まり成形されます。この冷え方で分子の集合状態が変わります。たとえば、PEEKが典型的な例ですが、溶かした状態から急冷すると結晶化が進まず半透明な物になります。ところが、ゆっくり冷やすと結晶化度が上がるため不透明な材料になります。結晶化度が低ければ柔らかい物性を出しますし、高ければ高くなります。これが1番簡単な、高分子の高次構造の違いなんですが、これらを意識的に制御して行うことで様々な機能が出てきます。当社が注力するビジネス5分野には、技術で注力する3分野が密接にかかわりながら研究開発をしています。

 所長としての技術者や研究者の育成

 ─現在、担当されている仕事を教えてください。

 テクニカルセンターの所長の役割として、イノベーションマネージメントがあります。具体的にはスタッフのR&Dに関するアドバイザー的な役割です。また、意識的に取り組んでいるのが、スタッフが一緒に研究開発したいという企業の発掘のほか、競合相手をリサーチしアドバイスを行っています。所長としては、2008年から就任していますが、2013~15年はエボニック上海の研究所の所長を兼務し、2週間日本で2週間上海でというような仕事をしていました。その経験で感じたことは、中国と日本のモノづくりに対する取り組み方ですね。

 ─製品開発をする上での課題と心がけていることは。

 一般的にR&Dは時間がかかります。半年や長いものでは数年単位であります。正直なところ、半年後のことなんて誰もわからない、ましてや実際売れるかどうかなんて絶対わからない。そのような環境でどうやってR&Dを進めていけばいいのかが1番大きな課題です。
その課題に対して、ある程度まで研究した時に、今取り組んでいることがビジネスにならないという仮説を立てます。その時に今まで取り組んできたことが今ターゲットにしていることに使えないとしたら何に使えるだろうと考えます。また、その別の物に転換しようと思った時に「このデータが足りないな」や「ここは確かめておかないとダメだな」みたいなことを考え、本来のターゲットとは違う実験を行うようにしています。そうすると、仮にうまくいかなくても残るものがありますし、それを基に別のことに展開できます。ある意味、ロスを少なくしようと思ったら、ちょっと矛先を変たり、一歩後ろに下がって基礎的なことを確かめるということが大事ですね。

 ─技術者や研究者の育成で工夫している点は。

 第1に、研究スタッフの好奇心の目を摘まないようにすること。2番目はオープンにディスカッションする雰囲気が当たり前だと思わせることに気を配っています。議論して自分が間違っていたとわかることを恐れない、知らないことは怖くないと感じさせることと、逆に自分が正しかった時に誇らないというような雰囲気をテクニカルセンターとしてキープするというのはすごく大事にしています。それが出来て初めてオープンに思っていることを発言できますし、相手の発言も聞くことができます。この点はR&Dで大きな成果を生み出す基になっております。また他社との協業においても、スタップに相手の言うことを聞けることも大事だと伝えております。

 ─技術者や研究者の働く環境について。

 スタッフが納得した上で実験・検討ができるように気を配っています。所長が言ったから、教科書に書いてあったから取り組むのではなく、本人がきっとここに何かあると思ったことを優先的に取り組ませるのが大事ですね。やはり、納得して取り組む時は、取り組んでいる本人の中にいろんな考えが既にあります。そういう目で、実験結果を見た時に見つけられる物と、あまりわかってないままやっておこうみたいな姿勢で出てきた結果では、同じ結果でも見つけられる物が全然違います。

 ─将来の技術開発について。

 最近意識的にやっているのは、国内の異業種とのコラボレーションです。
 コラボレーションするためには、相手との良い関係性を築くことが求められます。とくに、相手の意識としてのベクトル合わせと、信頼感の調整がすごく大事になってきます。その辺りをうまくやりながらやっていくのが重要です。今述べたことを行っている企業はなかなか少ないと思いますが、当社はそこを上手にやりながら、自分も相手も一緒に大きくなっていくという方針で研究開発にますます磨きをかけていきたいです。

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。

 


 

テクニカルセンター所長 六田充輝

 


 

会社名 ダイセル・エボニック株式会社

所在地 〒163-0913 東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス13F

 

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技術・開発者インタビュー ダイセル・エボニック 六田充輝さん

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