専門技術団体に訊く23 団体インタビュー SPE日本支部 齊藤卓志支部長

2026年08月01日

ゴムタイムス社

専門技術団体に訊く23 団体インタビュー

SPE日本支部 齊藤卓志支部長

齊藤卓志支部長

 SPE(Society of Plastics Engineers)は、1942年に米国で設立されたプラスチック技術者・研究者が集う学術・技術団体です。現在では84カ国、8万5,000人以上のプラスチック関連の専門家やステークホルダーが参画する、世界最大級のプラスチック分野の学術・技術団体となっています。

 SPE日本支部は1956年に発足し、2026年に70周年を迎えます。プラスチック材料、成形加工、評価・解析技術など幅広い分野を対象に活動を展開し、日本のプラスチック産業および関連技術の発展を支える重要な役割を担ってきました。現在は年間6回の講演会や見学会を開催し、企業の技術者や研究者の交流促進と知識・技術の共有を通じて、技術革新の推進とプラスチック産業のさらなる発展に貢献しています。

 今回は、SPE日本支部長を務める東京科学大学の齊藤卓志教授に、日本支部の歩みと活動内容、プラスチック研究開発を取り巻く現状と将来展望、そして今後の取組みについてお話を伺いました。

──SPE日本支部の沿革について

 2024年8月、山形大学の伊藤浩志先生の後任として、SPE日本支部の支部長に就任いたしました、齊藤卓志です。どうぞよろしくお願いいたします。

 SPE日本支部の歴史は、日本のプラスチック産業が黎明期にあった1950年代にさかのぼります。当時、米国の最新の技術情報を求める日本の技術者にとって、SPEが発行する機関誌「SPE Journal」(現在のPlastics Engineering)は極めて貴重な情報源でした。

 そのような中、ダウ・ケミカル社の役員であったハギンス氏(Mr. Huggins)が来日し、大阪市立工業研究所で開催された「プラスチック技術研究会」の例会に招かれました。そこで同氏はSPEの活発な活動状況を説明するとともに、「日本人であっても十分な実績があれば入会可能であり、ぜひ日本セクションを設立してはどうか」と提案しました。この提案に当時の研究会会長であった中尾忠雄氏(日本化工材、現・住友ベークライト)が賛同し、1956年初夏、「SPE大阪セクション」が発足しました。

 その後、会員数は着実に増加し、東京近郊の会員が全体の半数近くを占めるまでになりました。活動地域の拡がりを踏まえ、1963年には組織名称を「ジャパンセクション(SPE日本支部)」へと改め、全国規模の組織として新たな歩みを始めました。

 このように長い歴史を有するSPE日本支部ですが、その歩みは常に順風満帆だったわけではありません。経済環境の変化やプラスチック材料の生産拠点の海外移転など、社会情勢の影響を受ける局面もありました。しかし、創立50周年を機に、新定款の制定、法人会員制度の導入、運営委員会の設置といった組織改革を実施し、活動基盤の強化を図りました。

 こうした取り組みに支えられ、SPE日本支部は今日まで、日本のプラスチック産業の発展に貢献する学術・技術団体として活動を継続しています。

──事業活動と理念は

 前述のとおり、SPE日本支部は長い歴史を持つ学術・技術団体です。そのため、長年にわたって蓄積してきた知見を基に、変わらない視点で業界を見つけ続けると同時に、社会情勢や技術動向の変化に応じて新たなテーマを柔軟に取り上げて、会員の皆さまへタイムリーな情報を提供していくことが重要であると考えています。

 近年のトピックスとしては、サステナビリティや資源循環、カーボンニュートラル、さらにはEVをはじめとする次世代モビリティなどが挙げられます。これらはいずれもプラスチック材料や関連技術と深く関わる重要なテーマであり、業界全体の関心もますます高まっています。

 また、製造技術、成形技術技術、評価・解析技術のあらゆる分野において、DXやAIの活用は特別なものではなく、今や不可欠な要素となりつつあります。SPE日本支部としては、こうした先進的な取り組みや優れた事例を積極的に紹介し、会員相互の知識共有と技術革新を促進することで、プラスチック産業の持続的な発展に貢献していきたいと考えています。

──SPE日本支部の強みを教えてください

 プラスチック材料技術の領域は非常に幅広く、特にプラスチック成形加工分野では日々多くの技術情報が発信されています。そのため、最新の技術動向や研究成果を継続的に把握することの重要性は、多くの技術者や研究者が共通して認識しているところです。

 こうした情報を的確に収集し活用していくためには、個々人の努力に加え、業界内外の専門家とのネットワークを構築し、学協会などを通じて知見や経験を共有することが欠かせません。

 SPE日本支部では、そのような人と人とのつながりを育み、専門家同士が知識や経験を共有できる場として、定期的に講演会や見学会を開催しています。これらの活動を通じて、技術的課題の解決や新たなアイデアの創出、さらには異分野との交流によるイノベーションの促進につながることが期待されます。

 また、会員の皆さまをはじめ、講演会や見学会にご参加いただく方々にとって、有益で魅力ある情報発信と交流の機会を提供し、「参加してよかった」「また参加したい」と感じていただける場づくりに努めていることも、SPE日本支部の大きな特徴の一つです。

──学術・技術団体としてのSPE日本支部

 プラスチック成形加工に関連する学問領域は非常に幅広く、その研究開発や技術高度化を進めるためには、単一の専門分野にとどまらない学際的なアプローチが不可欠です。異なる専門領域の知識や技術が結びつくことで、新たな技術革新や価値創造が生まれると考えています。

 例えば、高分子材料であるプラスチックを効率的に合成し、成形加工に適した形で供給するためには化学工学の知識が欠かせません。また、材料の特性や物理・化学的挙動を正しく理解し、その性能を最大限に引き出すためには材料科学の知見が必要となります。さらに、近年では計算機シミュレーション技術の発展により、成形加工時における材料の流動や変形、温度変化などの挙動を高精度に予測できるようになっています。これにより、製品設計や加工条件の最適化、開発期間の短縮などが可能となっています。

 一方で、実際の成形加工を実現するためには機械工学の役割も極めて重要です。成形機や金型の設計・製作、製造プロセスの制御、自動化技術の導入など、多くの場面で機械工学の知識と技術が活用されています。

 このように、化学工学、材料科学、計算科学、機械工学をはじめとする多様な学問・技術分野が有機的に結びつくことで、高品質かつ高効率なプラスチック成形加工が実現されています。そして、こうした異分野の研究者や技術者が交流し、それぞれの知見を共有できる場を提供することこそが、学術・技術団体であるSPE日本支部の重要な役割の筆頭だと考えています。

──プラスチックの将来と日本の戦略

 近年、環境問題に対する社会的関心の高まりとともに、環境科学の重要性がますます高まっています。プラスチック産業においても、リサイクルや再資源化を推進し、持続可能な循環型社会の実現に貢献することが強く求められています。

 そのためには、プラスチック製品の製造から使用、回収、再利用、廃棄に至るライフサイクル全体を俯瞰し、環境負荷を最小限に抑えるという視点が欠かせません。また、環境性能の向上だけでなく、製造コストや市場ニーズとのバランスを考慮しながら、社会実装可能な形でプラスチックを活用していくことも重要です。その意味では、環境科学に加え、経済学的な視点も今後ますます重要になると考えています。

 また、素材・材料の開発だけでなく、成形加工プロセスそのものの高度化も重要なテーマです。特に、IoT(Internet of Things)によって収集される膨大なデータの活用や、AI(人工知能)による解析技術の進展により、成形条件の最適化や品質の安定化、生産効率の向上が一層進むものと期待されています。

 日本が今後もプラスチック産業において国際的な競争力を維持・強化していくためには、環境対応型材料の開発と先進的な成形加工技術の高度化を両輪として推進し、持続可能性と高付加価値化を両立させていくことが重要であると考えています。

──70周年記念講演会

 SPE日本支部では、2026年10月6日(火)午後、東京都品川区東大井の品川区立総合区民会館(きゅりあん)において、創立70周年の記念講演会を開催いたします。

 当日は講師として、桐蔭横浜大学の宮坂力先生、大京都大学の嶋正裕先生、そして元三菱電機の馬場文明氏を講師としてお迎えし、企業における技術開発のあり方や若手研究者・技術者への期待、さらには次世代を担う人材へのメッセージなどについてご講演いただく予定です。

 本記念講演会の開催にあたり、運営委員会では、70年にわたるSPE日本支部の歴史の上に今がある、という意識を大切にしつつ、参加される一人ひとりがプラスチック産業の未来や自身の将来像について考える機会となるような場づくりを目指しています。また、本講演会は社会貢献活動の一環として開催することから、どなたでも無料でご参加いただけます。プラスチック産業や研究開発、ものづくりの未来にご関心をお持ちの皆様に、ぜひご参加いただければ幸いです。

 なお、参加申込・詳細については、SPE日本支部の公式サイト(https://spejapan.org/)をご覧ください。

 プラスチックは今や、私たちの暮らしや産業を支える不可欠な材料となっています。一方で、その価値を持続的に活かしていくためには、「適切につくり、賢く使い、責任を持って再利用・資源循環につなげる」という考え方がこれまで以上に重要になっています。
 SPE日本支部は、こうした課題に真摯に向き合う研究者、技術者、企業の皆さまとともに歩みながら、知識と経験を共有し、新たな価値創造を支える場であり続けたいと考えています。そして、これからもプラスチック産業の発展と持続可能な社会の実現に貢献する学術・技術団体として活動を続けてまいります。

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。