専門技術団体に訊く21 団体インタビュー 難燃材料研究会 大越雅之会長

2026年05月01日

ゴムタイムス社

専門技術団体に訊く21 団体インタビュー

難燃材料研究会 大越雅之会長

第10回 難燃シンポジウム(2024年9月6日開催)

化学物質規制強化時代における難燃材料の対応戦略
研究会の技術支援体制と国際発信の重要性を指摘

一般社団法人難燃材料研究会(SFAM)は、日本で唯一の難燃材料を専門とする研究会です。火災から人命と財産を守るため、難燃技術とその周辺技術の共有・研究を通じて、産業界の技術基盤を支えてきました。設立30周年を迎える今年、3代目会長である大越雅之氏(岐阜大学)に、研究会の沿革、事業活動、難燃材料の現状と展望、そして今後の計画について伺いました。

──研究会の沿革について

 研究会は1996年に発足し、今年でちょうど30周年になります。立ち上げ時の会長は武田邦彦先生(中部大学特任教授)です。2代目の会長は西澤仁先生(西澤技術研究所)が務め、当初は任意団体として活動していました。私が会長を拝命したのは10年前で、その5年後の2021年に一般社団法人化しました。社団化によって国の補助金申請や他団体との協賛が可能になり、活動の幅が大きく広がりました。
 会員は個人・団体合わせて多数おり、団体会員は約30社です。運営委員も世代交代が進み、現在は40代以下の若手が中心になっています。ポリマーメーカー、添加剤メーカー、ゼネコンメーカー、自動車メーカー、大学など、多様な分野の企業が参加しています。

第10回 難燃シンポジウム(2024年9月6日開催)

──事業活動と理念は

 私たちの理念は、火災に対する予防措置として有効な難燃材料とその周辺技術を普及・発展させることです。教育、研究、調査を通じて企業の要望に応え、その成果を社会に還元することで、安全・安心社会の実現に貢献したいと考えています。
 研究会の活動は大きく3つに分かれます。①教育事業では、難燃材料や周辺技術のセミナー、人材育成のための講座があります。②調査・研究事業は研究プロジェクト、技術相談を行っています。③普及事業については、資料公開、出版物の発行、他団体との交流事業 もあります。
 特に特徴的なのが難燃材料に対する技術相談制度です。一般社団法人化して、企業様の要望で技術相談を始めました。難燃材料は燃える・燃えないが規格ビジネスに直結するため、企業から専門家への相談ニーズが非常に高いのです。そこで専門家とエキスパート登録をしており、著名な専門家が相談に応じています。
 また、当研究会は世界に1台しかない独自開発の難燃性評価測定も保有しています。私たちが開発しました。従来の燃えた・消えたではなく、UL94等の燃焼試験の燃焼エネルギーをデジタルで測定できる装置で、企業の評価ニーズに応えています。

大越会長

──難燃材料研究会の強みを教えてください

 私たちは実学を重視しています。難燃材料は実際の製品に使われて初めて意味を持つ技術ですから、企業の課題に寄り添うことが最も重要です。技術相談、分科会の設定、評価機器使用の提供など、企業の要望に応じて活動内容を柔軟に変えています。
 最近では、昨年11月に会員の自動車メーカー様とともに、EVs分科会設立を作りました。国内のほとんどの自動車メーカー様が所属しています。

第11回 難燃シンポジウム(2025年9月17日開催)

──難燃材料の現状と国際環境の変化

 難燃材料は建材、電線、自動車、家電など幅広い分野で必須の技術です。材料や製品の燃焼規格に合格しなければ製品に使えず、一度採用されれば規格更新がない限り長期間使われる守られた産業でもあります。しかし近年、国際環境は大きく変化しています。そのひとつが、EUの化学物質規制強化です。EUは保護主義的な化学物質規制(REACH)を強め、EU域内で生産していない臭素系難燃剤を重点的に規制しています。今年、最も使われている臭素系難燃剤がSVHC(高懸念物質)に収載され、業界に大きな衝撃が走りました。
また、昨年度中国がアンチモンなどに対して輸出管理をしました。2024年に中国がアンチモン化合物の輸出管理を発動し、日本への供給がほぼ停止しました。価格は5〜6倍に高騰し、PVCや電線など多くの業界が大きな影響を受けました。第三国に切り替えが進んでいますが量が足りず、調達リスクは依然として高い状況です。アンチモンの完全代替はないですが、代替材料などで対応していくなどが今後考えられます。

第11回 難燃・共同セミナー(2025年11月28日開催)

──リスクトレードオフという考え方

 経産省の取り組みとして、経産省は以前からリスクトレードオフという考え方を提示しています。化学物質のリスクだけを見るのではなく、火災リスク低減効果等を含めて総合的に評価すべきというものです。
 例えばリン酸エステル系難燃剤の場合、 火災リスク低減効果が40億ドルと言われています。化学リスク増加(仮に全て発がん性と仮定)では、53億ドルです。難燃剤を使うメリットが大きいことがわかります。日本の主張は欧州に届きにくいですが、規制に対して技術・情報・ロビー活動を組み合わせて複合的に戦う必要があります。

──難燃材料の将来と日本の戦略

 難燃材料は火災安全に直結する技術であり、社会に不可欠です。日本は技術で規制を勝ち抜いてきた歴史があります。また、1970年代に世界初の化審法を作ってきました。しかし、現在は研究投資が減り、技術力が停滞しています。今こそ高付加価値障壁を構築し、日本の技術を世界に示すべき時期に来ています。毎年、私は欧州で開催されたパネルディスカッションで日本の技術をPRして、海外の規制に対する楔を打っています。
 最近のアメリカのシンクタンクの予測では、AIサーバー、電池周辺部材、自動車電装などが今後の主要市場になるとされていますが、すでにその通りになり、多くの難燃材料が使用されています。日本の技術力はまだ高い。だからこそ、もう一度しっかりと世界で戦える体制をつくりたいと考えています。

──30周年記念シンポジウムと国際学会PACMA

 30周年記念シンポジウムを9月に開催します。また同時期に、国際学会PACMA(Polymer Additives, Composite & Manufacturing Asia:URL https//pacma2026.com)も京都で開催します。アジア地区のネットワーキングを広めるために、日本の添加剤やコンポジット、そしてコンポジットを製造するマニュファクチャリングの流れともに商品をPRしていきます。私たちは地に根付いた活動をしており、国際学会をただ単に学術の発表会で終わらすのではなく、産業の流れが分かる形で取り組んでいます。
 また、当国際学会はシンガポール大学と提携し、2027年にはシンガポールで第2回を開催し、アジア各国を巡回しながら日本の技術を広めていく計画です。
 難燃材料は安全・安心を支える基盤技術です。日本の技術力はまだ世界に通用します。企業の皆さまとともに、もう一度日本の難燃技術を世界の舞台に押し上げていきたいと考えています。

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。