研究者インタビュー 大阪大学大学院理学研究科・超分子機能化学研究室 小林裕一郎さん

2026年02月10日

ゴムタイムス社

研究者インタビュー

大阪大学大学院理学研究所・超分子機能化学研究室 小林裕一郎

新しい環境配慮型硫黄ポリマーを研究
産業化を実現し日本発の産業創出目指す

 大阪大学大学院理学研究科・超分子機能化学研究室の小林裕一郎先生は、環境負荷を低減しつつ高機能化が可能な材料として注目されている硫黄ポリマーを研究しています。この研究を始めたきっかけや、硫黄ポリマーの特長、そして今後の展望などについてお聞きしました。

──硫黄ポリマーの研究を始めたきっかけについて

 現在、大阪大学で超分子機能化学研究の山口靖先生のもと、2019年から硫黄ポリマーの研究をしています。
 もともと私はさまざまな高分子材料の研究を渡り歩いていましたが、京都大学の北川進先生の研究室に所属していた際、2013年にアリゾナ大学のJeffrey Pyun先生が発表した硫黄ポリマーに関する論文に出会いました。世界的にも注目されているその研究を読んだとき、「こんなに面白い材料があるのか」と強い衝撃を受け、そこから徐々に硫黄ポリマーの研究にのめり込んでいきました。
 硫黄ポリマーは新しい環境配慮型プラスチックであり、SDGsに資する材料でもあります。硫黄は、原油を精製するときに大量に出てくる副産物ですが、そのほとんどが使われないまま捨てられている現状があります。
 最近では、研究の方向性が明確になり、世界中でカーボンニュートラルが広まっています。硫黄は、世界では毎年700万トンが地上に投棄されているという現状を知り、「これはもったいない、なんとかならないか」と思っていました。
 研究している硫黄ポリマーの産業化が実現されたら、日本発の新しい産業創出につながり得ると考えています。余剰硫黄を価値ある材料へ転換することで、SDGsや環境負荷低減、将来的な資源循環にもつながる可能性があり、非常にポテンシャルが高い材料だと考えています。

──研究している硫黄ポリマーについて

 最初は私も既存の合成法を使ってみたのですが、反応温度が180℃と高く、有毒な硫化水素も出てしまい、安全面・環境面の課題が非常に大きかったです。そのため、これでは社会実装できないと思いました。
 しかし、逆に言えば、課題が明確なら解決策も考えられるはずです。そこから「室温で安全に作れる方法がないか」と発想を切り替え、試行錯誤の末に水中で混ぜるだけという、非常にシンプルな室温でできる合成法にたどり着きました。
 私の合成法は、特殊な装置も薬品も必要ありません。室温で水と硫黄を混ぜるだけ。5分もすれば反応が進んで、ポリマーが沈殿してきます。乾燥すれば、すぐに機能性材料として使える状態になります。
 この方法では、CO₂排出量を従来比で75%削減でき、硫化水素もほとんど発生しません(10ppm以下)。匂いも温泉臭ではなく、輪ゴムのような、日常で気にならない程度です。
 構造、そしてそれに基づく物性も明確に設計できるのが私の研究の強みだと考えています。そして液体や粉末などお客様の望んだ形状で提供できるので「テーラーメイドな硫黄ポリマー」をつくることができます。このデザインできるというところが、私の技術の大きな特長になっています。まさに、安全・エコ・使いやすい・リサイクル可能な硫黄ポリマーです。

研究する硫黄ポリマー

──硫黄ポリマーの広がる可能性について教えてください

 硫黄ポリマーの魅力は、その応用範囲の広さにあります。たとえば自己修復性。S-S結合の可逆性を活かして、切れた素材を圧着するだけで元通りになります。
 また、接着性も非常に高く、ガラス同士の間に硫黄ポリマーを挟み加熱後には被着体であるガラスが割れるほどの強度が出ます。しかも、加熱前は柔らかく塗りやすいため、製造工程にも適しています。
 電池材料としても期待されています。特にリチウム硫黄電池においては、理論容量の90%近い性能を示しており、20回サイクルを回しても98%の容量を維持することができました。将来的にはタイヤやEV分野などへの応用も視野に入れています。
 課題として、材料の提供を現在のグラムスケールからキロスケール、そして最終的にはトンスケールまで可能して、いかに社会実装できるか、そしていかにコストを下げることができるかが課題になっています。
 現在では、海外での私の硫黄ポリマーの認知度も高まっており、国際学会で招待されて講演を行い始めています。さらに、スタートアップを立ち上げいく計画もあります。

── 実用化に向けての状況について

 ありがたいことに、現在は日本ゴム協会に加入している企業様を中心に複数の企業と共同研究を進めています。サンプル提供を通じて実際に製品で試していただき、好反応を得ています。
 また、粉末、液体、ガム状など、ニーズに合わせて提供形態を調整することも可能です。材料の提供は数十グラム単位で行えますので、ご興味をお持ちいただける企業様とは、ぜひ一緒に開発を進めていきたいと思っています。

──大阪大学の研究の環境は

 産学官連携がしやすい環境になっており、支援が充実しています。大阪大学は共同研究数や大学発のスタートアップの数も日本一になっていますので、今の私の研究にはとても適しています。

──硫黄ポリマーの目指すべき展開は

 私は、ただ新しい材料を作って終わりではなく、硫黄の循環利用が社会の中で当たり前になる未来を描いています。現在は余剰硫黄を活用する第一段階ですが、今後は使用済みの硫黄ポリマーを分解・再利用して、真の意味での元素循環社会を実現したいと考えています。また将来的には、硫黄ポリマーの学理を成立させ、教科書を作ることができたらと思います。
 硫黄ポリマーは、環境問題、資源問題、産業課題に対してひとつの答えを提示できる材料だと信じています。私の研究が、少しでも社会の役に立ち、未来のスタンダードになっていくことを願ってやみません。

 

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。