ブリヂストン特集「探索事業/化工品・多角化事業の戦略」

2025年11月25日

ゴムタイムス社

ブリヂストン特集号「探索事業/化工品・多角化事業の戦略」

サステナブルな成長へ向けた種まき

 

共創を軸にビジネスモデルを探索
社会価値の提供で実証・小規模事業化へ

音山CEO

 ブリヂストンの探索事業は、サステナブルな成長へ向けた種まきと位置づけ、サステナビリティを中核とした社会価値を提供している。探索事業のうち、ブリヂストンの強み(コアコンピタンス)を活かした挑戦がソフトロボティクスだ。今回、ブリヂストンソフトロボティクス ベンチャーズCEOの音山哲一氏に、社内ベンチャーの立ち上げ、ソフトロボットハンドの開発背景と課題、将来への展望などについて話を聞いた。

 ■社内ベンチャーの出発点はどこにあったのか。

 今までタイヤのゴム・樹脂材料などの開発部門を経験した後、グローバルの商品戦略を立案する部署にいたが、2019年に技術センターに戻った時に、ちょうどオープンイノベーションの責任者として、いろいろな会社との共創活動を進めることに携わっていた。しかし、ちょうどコロナ禍に入ってしまった。そのため「社内の未活用技術を棚卸ししよう」と思い立ったのがきっかけだった。その中で出てきたのが、40年前に研究されていたラバーアクチュエーター、いわゆるゴムの人工筋肉だ。当時は商用化をしたものの、課題があった。しかし「今の技術であれば活かせるかもしれない」と考えた。そこから2023年に社内ベンチャーとしての活動がスタートした。

 ■大企業で社内ベンチャーを立ち上げるのは難しい印象があるが。

 確かに簡単ではなかった。ただ、ブリヂストンにはCEOとの対話の機会や、若手の挑戦を支援する制度など、挑戦を後押しする土壌が整っていた。そのときにCEOから「3か月間はやりたいことを試しても良い」という言葉をもらった。ベンチャーを立ち上げるために本当に事業化できるかどうか検討する良い機会となり、実際にベンチャーを立ち上げる後押しになった。また、実際にソフトロボットハンドの技術をお客様に伝えたときに、「ブリヂストンがやらなくて誰がやるのか」という嬉しい言葉もいただいた。

 ■ソフトロボットハンド「TETOTE」(テトテ)の技術的なブレークスルーは。 

 TETOTEの特徴は、3kg〜12kgの荷物を安全に、かつ柔らかく扱えること。人と一緒に働く〝協働ロボット〟のハンドとしてのニーズが広がっている。
 そして、ソフトロボティクスは「柔らかい素材」「動かす仕組み(アクチュエーター)」「制御技術」の3つが構成要素だが、以前からブリヂストンのタイヤ技術でこの3要素の技術を持っていた。そこで、これまでは伸縮する直線的な動きだけだった人工筋肉に、金属の板を入れることで〝曲がる〟動作を加えられるようになり、タコの足のようにしなやかな動きが再現できるようになった。製品化の実現にはタイヤで培ったゴムの素材技術や摩耗の知見が大きく寄与した。既存技術の〝新しい組み合わせ〟で、ブレークスルーが生まれたと思っている。

 ■市場へのアプローチについて。

 最初は物流業界向けを想定していたが、現在、導入に向けてソフトロボットハンドに注目していただいているのが自動車部品やエレクトロニクスの製造現場だ。現場を何度も回って、「この工程にニーズがある」と確信を持てたのは、実際に話を聞いて回ったからこそだと考えている。

 ■ここまでで一番大変だったことは。

 社会的課題とお客様の課題をマッチさせ、その両方を解決に導くことが、このソフトロボットハンドの役割だ。そのためには、ニーズを可視化することが重要になってくる。「人が普通にやっている作業」を、自動化する意味や価値としてどう見せるか。何度もデモや実証を行い、現在2つの勝ち筋を見出している。ひとつ目が自動車の製造現場で組み立て前に事前に段取りをするために活用していただくこと。もうひとつが、加工の作業現場で重い荷物を運ぶときに活用していただくこと。この事前段取りのニーズを探るところまでが一番苦労した。
 価値とはお客様から対価を払ってもらうことだと私は考えている。そこで、お客様にリアルに現場で導入できるというイメージを定着させていくことが課題のひとつだ。
 以前は、「面白いアイデアだね」という声が多かったが、24年の物流問題が話題となり、自動化に対する工場の現場の意識が一層高まっていると感じる。まだ生産ラインの導入実績はないが、実際にお客様の現場での実証あるいは実証実験を行うようになってきた。小規模事業化から本格事業化に向けて、26年は大事な時期だと考えている。

 ■今後の展望について

 ソフトロボットハンドの認知度をさらに高めていくこと。そして市場創造と顧客開拓をさらに広げていくことが重要だ。それと並行して、柔らかいロボットが、時間に追われる現代人を助けられないかという取り組みも模索している。将来的には人々の生活空間、オフィスや工場の働くスペースの人的ケアなどにも広げていきたい。
 この事業で日本の製造業の競争力を向上させたいというのが、我々の目的だ。だからこそ、そこに資するような展開をしていく。2031年はブリヂストン創業100周年。そのときに「未来の社会を支える技術」を育て上げたい。
 自分たちで市場をつくり、未来の“当たり前”になるものを生み出す。
 そういう挑戦をしていきたい。

 


 

 共創を軸にイノベーション加速

エアフリー

 ブリヂストンは10月17日、ブリヂストン技術センター(東京都小平市)において空気充填を不要にする同社の次世代タイヤ「Air Free(エアフリー)」の社会実装に向けた自治体向けグリーンスローモビリティを試乗会を開催した。
 試乗会では、エアフリーを装着したバスタイプとカートタイプのグリーンスローモビリティ(略称グリスロ、時速20キロ未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービス)に同乗し、エアフリーの性能や機能、提供価値を体感した。
 エアフリーは、空気の代わりにリサイクル可能なスポーク形状の熱可塑性樹脂で荷重を支えるシンプル構造でできているため、パンクの心配がなく、メンテナンスも容易。また、路面と接するゴムのトレッド部もリトレッド対応しており、資源の効率的な活用とサーキュラーエコノミーの実現にも貢献する。さらに、スポークの部分は視認性の高い青色を採用。夕暮れ時でもクルマを見つけやすく、モビリティの安心安全な移動を支える。

左からカートタイプ、バ スタイプ

 同社がエアフリーの開発を始めたのは2008年から。2008年~2013年までを第1世代、2013年~2023年までを第2世代、2023年から現在を第3世代と位置づける。第3世代はリアルとAIなどのデジタル技術を駆使し、スポークの素材や構造をさらに進化させることに成功。また、第3世代は「共創」をベースにイノベーションを加速している点も特長の一つだ。その一環として、地方自治体との共創の輪を広げる活動にも力を入れており、25年1月には滋賀県東近江市、25年2月には富山県富山市と連結協定を締結した。

 

 関工場にパイロット実証プラント

実証プラントの外観(イメージ)

 ブリヂストンは10月21日、同社関工場敷地内で使用済タイヤを精密熱分解するパイロット実証プラントの起工式を開催した。使用済タイヤを精密熱分解することで分解油や再生カーボンブラックを回収。
 タイヤ原材料として再利用するケミカルリサイクル技術確立に向け技術実証を推進し、プラント操業のノウハウ構築や人材育成も進める。
 なお、プラントの稼働開始は27年9月を予定し、年間最大7500t(乗用車タイヤに変換すると約100万本)の使用済タイヤを処理する。
 同社では、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、2022年から使用済タイヤのケミカルリサイクルの取り組みを進めている。23年には小平のブリヂストンイノベーションパーク(BIP、東京都小平市)に実証機を導入し、使用済タイヤの精密熱分解試験による分解油や再生カーボンブラックを回収する技術開発を進めてきた。これらの基盤技術をもとに、今後はパイロット実証プラントで回収した分解油をリサイクルオイル化し、合成ゴムの素原料であるブタジエンなどの化学品を製造することで、再生カーボンブラックとともにタイヤ原材料として再利用される資源の循環を目指していく。
 起工式で田村亘之副社長は「今回のパイロット実証プラントは当社にとって世界初の挑戦であり、持続可能な社会の実現に向けて非常に重要なプロジェクトだ。使用済タイヤを資源として再びタイヤ原材料に戻す水平リサイクルの実現に向けてブリヂストン独自のリサイクル技術と量産化技術を確立し、再び高品質なタイヤを生み出す循環を創出することを目指す。タイヤ業界のリーダーとして持続可能な社会の実現と安定的な原材料調達・タイヤ供給の社会的責務を果たすためにこの実証活動を通じてタイヤリサイクルの早期実現に挑戦する」と話した。
 2030年までにタイヤ水平リサイクルの社会実装を見据えた検証を実施し、タイヤ水平リサイクルの早期社会実装を目指していく。

 

 ソフトロボティクス事業化へ

 同社の社内ベンチャーであるブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズは、ゴム人工筋肉を活用したソフトロボティクス事業の本格的な事業化に向け、取り組みを進める。
 その一歩として24年11月28~12月20日まで、都内の複合施設で、様々なパートナー企業と共創し、柔らかいロボット「Morph」を使ったを期間限定サービスを実施した。
 同社は、タイヤやホースの開発・生産におけるノウハウを活用したゴム人工筋肉(ラバーアクチュエーター)を用いて、ゴムの力を活かした柔らかいロボットで「ヒトとロボットの協働する柔らかな未来の実現」を目指している。さらに幅広いパートナーとの共創をベースに、ソフトロボティクス事業のビジネスモデル探索を進めている。これまで、ゴム人工筋肉を指に適用したソフトロボットハンド「TETOTE」を開発。物流倉庫や自動車部品工場に試験導入し、ファクトリーオートメーション現場などBtoB分野での事業化を推進してきた。
 今後、柔らかいロボット「umaru」も実証実験、サービスの提供を開始していく。ソフトロボティクス事業を現在の小規模事業化フェーズから、本格事業化フェーズへと加速していく。

 

 ブリヂストンが実証実験を開始 富山市との共創で次世代タイヤ

出発式の様子

 富山県富山市とブリヂストンは、富山市が運営するバスタイプのグリーンスローモビリティに空気充填の要らない次世代タイヤ「AirFree(エアフリー)」を装着し、公道での全国初となる実証実験を2025年11月8日より開始した。
 「AirFree」は「地域社会のモビリティを支える」ことをミッションに、高齢化や過疎化、労働力不足といった地域交通に関する様々な課題の解決策として注目されているグリーンスローモビリティで安心・安全な移動を支えることを目指す。富山市と同社は、グリーンスローモビリティ運行事業に関する連携協定を2025年2月に締結し、公道での実証実験の準備を進めてきた。今回の実証実験では、バスタイプのグリーンスローモビリティ「Boule BaaS」(ブールバース)が運行されている富山駅北エリアで行われた。

 

 月面探査車用タイヤが評価 ブリヂストンが英業界誌賞受賞

月面探査車用タイヤのコンセプトモデル

 ブリヂストンは4月に、英国の業界誌「Tire Technology International」が主催する「Tire Technology International Awards for Innovation and Excellence 2025」において、月面探査車用タイヤで「Tire Concept of the Year」を受賞した。同賞は、最も革新的かつ先進的なコンセプトデザインのタイヤに贈られる。
 今回の受賞では、月面という地球上のどの環境とも異なる「極限」の環境に対応し、スペースモビリティを足元から支える独創的なタイヤの開発が、タイヤ業界および学術機関の専門家に評価された。
 同社の月面探査車用タイヤは、月面を走るモビリティに求められるより厳しい走破性と耐久性に対応するために、空気充填が要らない次世代タイヤ「AirFree」で培ってきた技術を活用し、金属製スポークを採用。この構造により、真空状態で激しい温度変化や放射線にさらされる「極限」の月面環境下において、耐久性を保ちながらも柔らかく変形し、月面にあるレゴリスと呼ばれる微細な砂の上での走破性を確保する。