活躍するリケジョ020 イノアックコーポレーション 奥村純子さん

2025年11月07日

ゴムタイムス社

活躍するリケジョ020 イノアックコーポレーション

ゴムエラストマー事業部技術部生産技術課主幹 奥村純子さん

お客様ニーズに寄り添った製品開発へ
一般ユーザーのリアルな声を聞くのが楽しみ

 日本で初めてウレタンフォームの生産を開始したイノアックコーポレーションは、発泡技術のリーディングカンパニーとして成長を続けています。日本と中国、北米、タイに研究開発拠点を構え、ウレタンフォームをはじめ、ゴムやオレフィン、特殊材料(シリコーン、アクリル等)をベースにさまざまな発泡技術と組み合わせることで、高付加価値を有した新しい素材の開発を行っています。同社に入社後、化粧品用パフなどの研究開発や営業、秘書など様々な経験をされてきたゴムエラストマー事業部技術部生産技術課主幹の奥村純子さんにお話をお聞きしました。

 ◆現在の役職を教えてください。

 肩書はゴムエラストマー事業部技術生産技術課主幹になりますが、裁量を持って日々の業務を行っています。

 主な業務としては、新製品の配合開発、営業担当がお客様に提案するサンプルの試作、顧客要望や問い合わせへの対応、新規受注した製品の立ち上げ関連業務を担当しています。また製造現場に立ち会って、不良削減や生産の効率化などを製造スタッフと協力して改善しています。

 私が担当している化粧品用パフに関しては、当社の営業社員がお客様である化粧品メーカーにお伺いし、パフに塗るファンデーションの材質の固さや、柔らかさ、また油分や水分量、求める仕上がりなどをお聞きし、フィードバックした試作品を提案しています。時には営業社員に同行して直接お客様の声をお聞きすることもあります。

 ◆入社後のご経歴を教えていただけますか。

 ニュージーランドの大学院を卒業し、当社に入社しました。イノアック技術研究所(神奈川県秦野市)に出向という形で配属され、ゴムの水分散体であるラテックスの発泡体に関する開発研究に携わりました。ラテックスにおける水分散剤の役割は、牛乳にお酢を入れるとチーズのように固まりますよね。

 水分散剤は、このお酢のような役割を持つ薬剤です。この水分散剤を使って、いかにきめ細かな発泡にしていくか、強度を上げるための架橋剤の検討や凝固剤の研究開発を行っていたほか、ウレタンフォームの水分散剤など他素材への応用や用途展開などの研究も行っていました。

 開発の一例としては、スマートフォン用の緩衝材向けに、フィルム並みの薄さを有しつつ発泡させるという、厚さ0.1ミリの発泡体の開発を目指していました。

 その後は結婚・妊娠・出産を経て、復職後は再び研究所に在籍し、カーボンナノチューブ(CNT)をゴムに添加した製品を開発する業務にも携わっていました。残念ながら、お客様が求める物性やコスト面などを考慮して、CNTとゴムの複合化製品の開発は断念しましたが、CNTをゴムに添加する研究は2年くらい行いました。

 ◆営業や秘書の仕事も経験されたとか。

 CNTをゴムに添加する開発業務の後は、化粧品用パフの営業を担当しました。化粧品用パフを開発していた頃から技術営業として、お客様である化粧品メーカーへ訪問に同行していました。

 それまで抱いていた営業社員のイメージは、お客様の要望を聞いてサンプル品をお出しするといった仕事が多いと思っていたのですが、実際は顧客管理などの業務も多くて・・。上司に教えてもらいながら営業の仕事を学びました。

 今でも思い出すのは、新規顧客を獲得した時のことです。新規のお客様の獲得を目標とする中で、幸いにも初めて新しいお客様から注文をいただけることになりました。ただ、その取引先がスタートアップ企業だったこともあり、上司からは直接の取引ができないと言われてしまいました。『新しい顧客をとってきなさいっていったからとってきたのに』と思いましたね。

 最後は無事に取引ルートを整備することで受注につながり、取引先企業も今では大きく成長しています。注文をもらうよりも、取引を成立させるための商流を整えることが大変でした。経験したことがなかった営業業務の一部を学ぶことができ良かったです。

 ◆秘書ではどんなお仕事を。

 化粧品用パフの営業業務を経験した後は、営業本部で新規顧客キャンペーンの集計や販売計画の管理、その後は海外事業統括室で海外現地法人のスタッフとのやり取りなどを行いました。入社13年目の頃、井上会長の秘書に就くことになりました。社内会議や打ち合わせに参加したり、会長が出席される社内会議を事前に調整する業務などを担当していました。

 ただ、秘書としての実務スキルはないので、社外向けの業務やお客様とのやり取りは業務経験のある正式な秘書担当者にお願いをしていました。

 ◆仕事のやりがいを教えていただけますか。

 実際に採用していただいた商品を市場で見たときは、素直にうれしいですね。当社の製品は自動車用の部品や情報機器向けのパーツが多いため、なかなか日常生活で目にする機会がありません。化粧品用パフはわかりやすい製品ですから、娘にも胸を張って伝えることができます。

 また、一般ユーザーからの評価を化粧品の口コミサイトで見ることもあります。もちろん悪い評価もありますが、ユーザーから塗りやすいとか耐久性がいいねといったリアルな声を見るとうれしくなります。

 ◆コミュニケーションで重視されている点は。

 部署関係なく、女性社員の話を聞こうとしています。私より年上の女性社員は在籍していますが、技術や生産を担っている社員はいなくて。キャリアに悩みを覚えている社員には、不安を取り除いてあげられるような言葉を伝えるように心がけています。

 当社社員の男女比は男性8割、女性2割ですが、女性の技術者も徐々に増えていますし、子供を産んで仕事に復帰している社員もいます。当社の子育て支援制度もかなり充実してきており、私自身も短時間制度を使わせていただいて仕事と子育てを両立してきました。私のように(研究者から営業、そして秘書、また研究者)経験をしている女性社員は当社にはいないのですが、悩みを持つ女性社員には『何とかなるよ』ということを伝えています。

 もちろん会社や家族の協力があってこそだとは思います。子育てをしながら当社で仕事を続けてくれる女性社員が増えてくれたらいいなと思っています。

 ◆イノアックコーポレーションに入社された理由は。

 名古屋工業大学では、分子量制御を研究テーマにリビングラジカル重合に関する研究を行っていました。ニュージーランドのオークランド大学工学部に留学しました。

 もともと中学・高校のときから方程式のように解がわかる数学の勉強が好きでした。ただ、大学に入学して実験を行うと、方程式通りには進まなくて。ただ、それはそれで面白いというか。思い通りにいかないことも良い経験になりました。

 当社に入社しようと思ったのは、最終製品に近いものづくりをしたいという気持ちがあったことが大きいです。当社は自動車用の部品や情報機器に用いられるパーツを作っていますが、マットレスやキッチンスポンジなど消費者向けの製品もつくっていたことも当社を志望した理由です。

 ◆今後、どのような開発をしていきたいですか。

 化粧品用パフの素材は、天然ゴムがはじまりだったのですが、現在は合成ゴム(NBR)が主流となっています。環境に配慮したものづくりの流れが広がるなかで、お客様である化粧品メーカーからも環境対応が求められるようになっています。

 合成ゴムは加硫工程があるので、リサイクルが難しい素材です。ただ、当社の技術部は資源循環として、再度原材料として使えるようにする脱硫再生技術の研究にも力を入れています。環境対応でいえば、廃棄物を削減したり、生産効率化によってエネルギー使用量を削減していく、トータルで考えたときの環境への貢献ができないかと考えています。これからもお客様のニーズに寄り添った製品を開発していきたいです。

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。