技術者インタビュー ㈱バルカー
CTO兼 技術総合研究所長・取締役 青木睦郎
技術総合研究所・プリンシバルエンジニア 西亮輔
コア事業のシールエンジニアリングを軸に
AI技術を駆使し新たなH&S商品として展開
バルカーは社名の由来でもある「Value(価値)」と 「Quality(品質)」にあくなき追求を続け、シールエンジニアリングのパイオニアとして、日本経済の発展を支えている。同社のCTO兼 技術総合研究所長の青木睦郎取締役(以下、青木)と同研究所のプリンシバルエンジニアの西亮輔氏(以下、西)に、技術開発の環境、人材育成との進捗などについて、お聞きしました。
──バルカーの強みを教えてください。
青木 技術的な観点から、コア事業のシール製品では、材料の配合技術からスタートし、製品設計までのプロセスを統合的に手掛けています。そのほか、樹脂製品においても、長年の経験から材料設計や形状設計の領域でも多様な技術が蓄積されています。そこが強みのひとつです。また、実際に製品として使用していくなか、製品の評価手法についても多様な技術を持っており、これも強みの一つと言えます。私は様々な企業の技術開発を見てきていますが、材料の配合技術からスタートし、実際に顧客の皆様からの要望に対応する多様な製品を設計と評価を駆使して作り込んでいく、このプロセスには当社の強みがあるとではないかと思っています。さらに、今後はデジタル関連のツールを上手く組み合わせていくことで、より強い技術の展開が可能になっていきます。
当社は8年前から、真のH(ハード製品)&S(サービス)企業への進化を遂げるべく、今までの質の高いハード製品に加え、顧客の視点に立った真のサービスを目指すことで、お客様に安心・安全を提供しています。ハード製品とサービスのつながりが、しっかりとできています。ここも当社の強みと言えます。
──技術開発の環境について。
西 技術者として、アイディアをブラッシュアップできる環境が整っています。分析装置などの設備投資の充実はもちろんですが、当社では、外部機関とともにアイディアをブラッシュアップできる環境があります。講習会や研修会への参加のほかに、最近では、大学機関や国の研究機関との共同開発も盛んに行っており、推奨されています。このような活動に取り組んでいる人に対して、「オープンイノベーションポイント」というポイント制度を作り、活動が多い人には表彰されます。
また、私が所属する技術総合研究所はR&Dが中心ですが、商品開発フェーズでは、事業部の営業部門ともしっかりと連携を取れる体制をとっており、風通しが良い環境になっています。男女の比率は男性が7割、女性が3割ですが、最近では女性の比率も増えています。
──研究者の役割について教えてください。
西 私の役割は、プリンシバルエンジニア(以下、PE)です。ひとつのプロジェクトを任される立場となっています。
青木 当社では昨年10月にPE制度を導入し、部長や課長という今までの役職の枠に囚われず、組織をフラットにしました。PEは人事的な管理者とは違いますが、研究所のなかで各テーマのプロジェクトリーダーになります。西は人事という観点からは管理職ではありませんが、あるテーマに関しては、実際に管理職が行う役割を担当しており、若手でもアイディアが出せる環境になっています。
──西さんは、どのような研究を行っていますか。
西 当社の事業から新しい領域として、放熱材のテーマで研究開発をしております。基本的には、配合技術や基礎研究に携わっていますが、それに加えて、新しい技術や新しい領域にも挑戦しております。各テーマに沿って研究し、商品開発の手前まで行っています。
──開発研究者の人材育成について。
青木 西が前述しましたが、研究者には外部機関などに触れるチャンスを提供しています。外部の専門家と連携したり、専門機関に訪問し勉強したりするなど、360度いろいろな部分に触れる機会を増やしています。ここが人材育成のポイントです。この場合、対象となる外部機関は、日本のみならず、海外のスタートアップ企業やアカデミアにも触れる機会を作っています。当社には自由に研究できる環境のほか、各人のアイディアを業務から離れて深堀するために一定の時間を割くことができるような仕組みもあります。さきほど、役職に関してフラットな役割を与えると言いましたが、縦割りではなく、横に広がりがある環境を作り、新しいアイディアが出てくるような環境を今後も提供していきたいです。
もちろん研究に関して、分析機器などの環境整備においても、しっかりとした投資をかけていく必要があると考えております。
──最近注力する製品・技術を教えてください。
西 我々が取り扱う製品の産業分野は非常に広いです。エラストマー製品分野では、とくに、次世代エネルギー分野にとても注力しています。
最近上市した製品では、高圧水素ガス用シリコーンゴムシール「BLISTANCE®-HULT」があります。同製品の特長は、-60℃という極低温環境下でゴム弾性が失われず、95MPaの高圧水素ガスを計1万回以上繰り返し圧力負荷させても、シール性能を維持することです。同製品は他社にはない、当社独自の配合設計技術を活用したシール材になっています。
また技術面では、私が関わっているマテリアルインフォマティクスに非常に注目をしております。新しい領域や新たな機能を持った材料を創造するうえで、表面的ではなく、我々独自の活用法やアルゴリズムが必要だと今ではわかっており、今後も深掘りしていきたいです。
青木 コア事業であるシールエンジニアリング技術は、当社の強みです。この強みを継続して重要な商品開発・材料開発を行っていくことも課題として捉えています。
──AI技術などの取り組みについて。
青木 技術面で当社が取り組んでいるマテリアルインフォマティクスもAI技術です。また、知的財産戦略として、IPランドスケープが広く認知されていますが、当社では、このIPランドスケープを積極的に活用し、新規商品の用途探索を行いながら、新事業や新製品の開拓に活かしております。こちらもAI技術の活用のひとつになります。
今後は、設備保全のためのセンサーなどに、AI技術を組み合わせてサービスを提供していく予定です。また、AI技術を使って研究開発の行先自体や生産技術の面でも応用する事にもトライしていきます。
──技術研究の課題は。
青木 最近では、昔からある材料自体にも高い要求性能が求められてきています。そのために、実際に我々は何をするべきなのかを考えることが重要です。例えば、材料の分子レベルまで落とし込んだ考察を行う必要も出てくると考えられます。配合技術を高度化することで、材料性能を高度化させていく事も考えて行かねばなりません。そうなってくると、プロセス技術も今までにないアプローチも考慮しなくてはいけません。そしてそこでは、AI技術を駆使した画像分析などを活用することで、より進化された材料のキャラクタリゼーション技術が生み出されていく事が期待されます。そして、これらの材料関連技術とセンシング/IoT技術を活用して収集されたデータをいかにしてマネージメントし融合させ、新たなH&S商品として展開させていくかという課題が我々にとって、今後の技術課題になってきます。
──西さんにお聞きします。将来的にどんな研究者になりたいですか。
西 当社の企業理念「THE VALQUA WAY」の行動指針には、「事業を通じた社会への貢献」、「チャレンジ精神にあふれた『学習と成長』への強いこだわり」があります。この行動指針に基づき、自分のアイディアを社会実装したいという思いが強いです。アカデミアの研究者になりたいというよりは、しっかりと社会の問題に対して具体的にソリューションが提供できるような研究者になっていきたいと考えております。
──2027年に迎える創業100周年に向かって。
青木 技術面で言えば、創業以来蓄積されたシールエンジニアリングのコア技術、またはその周辺技術に対して、付加価値を高めていくなかで、新しい用途や新しい市場からの要求に応えていくことが大切です。具体的には、我々のコアビジネス領域に関わりがある市場という点から、例えば再生可能エネルギー分野に力を入れています。またコア事業のシールリングの半導体分野も次世代化技術への対応が行えるように当社技術を進化させていくほか、工場設備の予知保全システムなどプラント関連もしっかりと支えていけるように、用件となる技術力の拡充を行っていきます。さらに、当社にとって全く未開拓な分野にも機会があれば挑戦していきたいと思います。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。