技術・開発者インタビュー ショーワグローブ 坂本眞一開発本部研究開発部部長

2021年08月26日

ゴムタイムス社

技術・開発者インタビュー ショーワグローブ
開発本部研究開発部部長 坂本眞一

 家庭用・作業用・産業用手袋の専業メーカーとして、1954年の創業以来、ユーザー目線の商品づくりを基本とし、同社でしかつくれないオリジナリティにあふれる製品を数多く生み出してきたショーワグローブ(兵庫県姫路市、近藤修司社長)。「製品開発にゴールはないし、永遠のテーマになる」と語る同社開発本部研究開発部部長の坂本眞一氏にショーワグローブの技術力・開発力の強みなどを聞いた。

──ご経歴をお聞かせください。

 坂本 2000年4月に入社して、今年で21年目になります。生まれは東京で大学も関東(埼玉大学大学院、理工学部研究科応用化学科専攻卒)ですが、姫路に本社を置く当社に入社を決めたのは、大学時代に専攻した化学を生かした仕事をしたいと思ったこと、また当時の教授から専門分野というよりは、日用品の開発研究をやってみてはどうかという提案をいただいたことも当社に入社を決めた理由の一つです。

──入社後担当されてきた仕事を教えてください。

 坂本 入社後は本社の研究開発部で仕事をしていましたが、2006年にマレーシアの研究開発部へ出向となり、現地のR&Dセンターで3年間従事しました。マレーシアでは、手袋の開発、コストダウン、生産工程の改善などに取り組みました。その中で最も力を入れて取り組んだのが、ニトリルゴム製の炊事用手袋の開発です。
炊事用手袋では、当社は1954年に塩化ビニル樹脂製(PVC)手袋(厚手)を開発して以来、国内炊事用手袋市場で高いシェアを獲得しています。
ただ、私が入社した当時(2000年頃)は、プラスチックの可塑剤として使用するフタル酸エステルに関する問題や、ダイオキシンの問題もあり、PVC製品全体に対する風当たりが非常に強くなっていた時期でもありました。
ダイオキシン問題を受けて、当時の経営陣がPVC製の炊事用手袋が製造できなくなった場合に備えて、ニトリルゴム製の炊事用手袋の生産に切り替えていこうと決断しました。そのような市場環境下で、私が入社したこともあり、入社後ほどなくしてニトリルゴム製の炊事用手袋の開発に携わることになりました。

──ニトリルゴム製の炊事用手袋の開発で苦労したことは。

 坂本 ニトリルゴム製の炊事用手袋については、物性はほぼ問題がなかったのですが、コストを含めた採算性や加工面でやや不安定な面がありました。
加工でいえば、実際のラインに流すと、き裂が入ったり、決してあってはならないことですが製品に小さな穴が入ったりするケースもあり、不良率の高さが問題となっていました。その中でいかに製品の不良率を下げるか、そのための生産性改善に注力して取り組みました。
今から思うとマレーシア駐在中は本当しんどかったですね。製品の不良対策もそうですが、日本で一つひとつ作った手袋をマレーシアの設備でいざ生産してみると違いが生じて、思いもよらぬことが日々発生し、大変な思いをしました。ただ、当時の上司から問題解決につながるアイデアやアドバイスをもらい、それを試してみることで徐々に対処できるようになりました。
なお、PVCのダイオキシン問題については、問題がないことが確認されたため、当社のPVC製の炊事用手袋は現在も販売を続けることができています。

──日本に帰ってきてからはどのような仕事を担当してきましたか。

 坂本 2009年に日本に帰国してからは、ニトリルゴム製の炊事用手袋の新商品開発であったり、引き続き日本からマレーシア工場の生産性改善を行うことを中心に取り組んできました。
また、当社の作業用手袋には、背抜き手袋のロングセラー「グリップシリーズ」で、軽やかなフィット感を特長とする「ライトグリップ」という商品があります。このライトグリップは、もともとマレーシア工場で生産しましたが、現在はベトナム工場で生産を行っています。マレーシアからベトナムへ生産を移管する際、生産設備を変更することになり、マレーシア、ベトナムの両拠点と協業しながらスムーズに生産移管が行えるように努力しました。

背抜き手袋のロングセラーシリーズ「ライトグリップ」

背抜き手袋のロングセラーシリーズ「ライトグリップ」

──開発本部の組織体制を教えてください。

 坂本 私が所属する開発本部は、研究開発部とエンジニアリング本部、生産技術部の3部体制で構成されており、総勢約50人がこの姫路本社(姫路R&Dセンター)で働いています。このうち、私が所属する研究開発部は現在30人程度が在籍し、家庭用手袋、作業用手袋、産業用手袋など各種手袋の開発に向けた素材の研究開発などの仕事にあたっています。
また、エンジニアリング部と生産技術部はそれぞれ10人程度が所属し、エンジニアリング部は姫路工場とマレーシア・ベトナム・ミャンマーの海外工場の製造ラインや生産設備を準備したり、製造工程の図面を書いたりするのが主な仕事の役割となります。
生産技術部は、国内と海外拠点のつなぎ役として生産現場で起きるさまざまな問題に対して、拠点ごとに改善したり、拠点全体で改善したりするなど、拠点のフォローを行うのが生産技術部の主な役割となります。

──ショーワグローブの技術力・開発力の強みを挙げると。

 坂本 当社の一番の強みは、手型づくりから製造ラインまですべて自社で設計開発できる点ですね。なぜ自社で設計開発するのかいうと「品質にこだわりを持つ」という創業者の理念があるからだと思います。
他の手袋メーカーさんからは「ショーワさんの手袋は価格が高い」と指摘されることも多いのですが、創業者の品質にこだわりを持つという理念を受け継いできたからこそ、当社でしかつくれないオリジナリティにあふれた手袋を多く生み出すことができたと思っています。
品質にこだわりを持つという点では、手袋は手型が決まればそのほとんどが決まってしまうといわれるほど、製品開発で一番のポイントになります。手型の設計開発は、職人的な部分が強い仕事になりますが、手型も自社で設計開発しています。

──ユーザー目線で商品づくりを行う理由は。

 坂本 皆さんも手袋をして皿洗いや掃除などをするときに感じると思いますが、なるべくなら手袋をはめたくないと思いますよね。それだけ人の手は非常に器用にできています。
そうしたなかで、手袋をお使いいただいているお客さまの要求に合った手袋を開発する必要があります。その意味でいえば、手袋を使うストレスをできるだけなくす、つまり「ユーザー目線の商品づくり」を心がけています。常にお客様の思いを念頭に研究開発に取り組むのが当社の基本方針になっています。

──現在取り組んでいる開発はありますか。

2020年度グッドデザイン賞を受賞した「TEMRES01winter」

2020年度グッドデザイン賞を受賞した「TEMRES01winter」

 坂本 手袋に求めるユーザーの潜在的な要求は、入社して以来そんなに大きく変わっていないと思います。手袋には「使いやすい」「柔らかい」「強い」という潜在的要求があり、人が手袋を使う以上、これからもその要求は不変だと思っています。
その要求に対し、ユーザーから100%の満足を得られるには、やはり手の形に近い手袋を作らないといけないと思っています。
例えば、工場などで使われる産業用手袋では、安全対策への意識が法律で厳しくなり、従来は軍手などで良かった場面でも、作業者の事故やケガを未然に防ぐ安全性の高い耐切創手袋を使わなければならなくなりました。
そうした中で、当社は、「HAGANECoil(ハガネコイル)」や「DURACoil(デュラコイル)」という当社独自の繊維技術を活用した耐切創手袋シリーズを開発し、柔軟性や耐切創強度、フィット感を高めながら、高い作業性を実現することに成功しています。
また、「テムレス」は2005年の発売当初は、農業分野のユーザーをメインターゲットに据えていましたが、想定していたほどの販売数量が得られなかったため、2009年に社内では「ニューテムレス」と呼ぶほど大幅なリニューアルを行いました。手袋の柔らかさやすべり止めの機能を大きく改善したのですが、これをきっかけに大ヒット商品になりました。その後は防寒タイプやジャージつきタイプなどラインナップを広げながら、「防寒テムレス」の機能はそのままに、商品の色などをアウトドア寄りにした「TEMRES(テムレス)282―01」を2018年12月に発売するなど新たな市場への挑戦も行っています。
また、2019年に発売した「TEMRES 01winter」「TEMRES 02winter」は、従来の防寒グローブから作業性・快適性を向上させた点やハードユースからライトユースまで人々の幅広い活動に寄り添ったことが評価され、2020年度のグッドデザイン賞を受賞しています。

──若手技術者の育成で気をつけていることは。

 坂本 部下の仕事管理はもちろん、新商品開発の方向性を部下と協議しながら、部下が提案してきた技術やアイデアをフォローすることで、より良い製品が生み出せる環境づくりに力を入れています。
また、ラボということもあり、トライ&エラーでいえば、むしろエラーをしてくださいと話しています。できた条件とできなかった条件の両面をみるということは非常に重要なことだと思います。
あとはやっぱり考えることを意識させる。ある現象が起きたときに、なぜこの現象が起きたのか、どのような理論で起きたのか。そのことをしっかり考え、仕事に取り組んでほしいと伝えています。
そのためには、考える地力を付けないといけないですし、自分の手を動かしながら考える地力をつけていく。ただ、昔のように長時間残業を良しとする環境ではなく、限られた勤務時間のなかで自分を磨き、考える地力をつけられるかが大切ですね。こちらかもアドバイスをしますが、まずは自分で何ができるか考え、手を動かしてほしいです。

「若手社員には考える地力をつけてほしい」と語る坂本部長

「若手社員には考える地力をつけてほしい」と語る坂本部長

──ショーワグローブで今後取り組みたい仕事はありますか。

 坂本 先ほどお話ししたように、手袋に対する潜在的な要求品質は不変だと思っていて、すべてのユーザーに100%満足させられるような製品を開発するのは難しいと思っています。ただし、研究開発に携わる以上、その部分は追い求めたいです。商品開発にゴールはないですし、永遠のテーマだと思っています。
もう一つは、昨年、今年と新型コロナウイルスによって我々の生活様式がガラリと変わりました。従来では考えられなかったことですが、コロナ感染対策として、電車のつり革を持つときに手袋をする人を見かけたりもしますし、日常で手袋を使う場面が増えていると感じます。
また、コロナから身を守るという観点からは、今後「抗菌」をテーマにした手袋の開発も必要になると思いますし、その際は新たな素材を探索することも必要です。
当社は2023年にニトリルゴム製の使いきり手袋の生産拠点施設を香川県坂出市(番の州臨海工業団地)に新設します。私も新工場建設プロジェクトに携わる一員として、香川県に足を運び、県の職員の方々と話をしています。
また、このコロナ禍において、医療機関や工場などで使用する使いきり手袋が供給不足に陥りました。マスクやワクチンもそうですが、海外生産に頼ってばかりいると、需要が急拡大したときに、品不足が起きてしまうということを強く感じました。これは国内製造業が抱える弱みでもありますし、また今後新たなパンデミックが起きないとも限りません。当社の新工場で生産された手袋がその一助になれたらと思います。

 

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。

 


 

開発本部研究開発部部長 坂本眞一氏

 


 

会社名 ショーワグローブ㈱
代表者名 代表取締役社長近藤修司
所在地 〒670-0802
兵庫県姫路市砥堀565
資本金 4860万円
社員数 347名(男性218名/女性129名)
連結従業員数:6,205名(2020年12月31日現在)