技術・開発者インタビュー NOK㈱ 深澤清文部長、鈴木昭寛主事補

2021年02月04日

ゴムタイムス社

技術・開発者インタビュー NOK㈱

情報収集力や発想力、創造力などを駆使して新たな市場を開拓していきたい

 創業以来の代表的製品であるオイルシールから、フレキシブルプリント基板(以下FPC)など電子機器に用いられるものまで、幅広い分野にわたる製品の研究開発に注力しているNOK。技術本部材料技術部の深澤清文部長と、同材料開発二課の鈴木昭寛主事補に、同社の技術開発について尋ねた。

最大の強みはゴムの配合技術

──御社の概要を教えてください。
深澤 1939年に設立し、従業員数は連結で4万2251名(2018年3月末時点)です。主要事業は、シール事業、電子部品事業の大きく2つになります。
 シール事業の主力製品であるオイルシールは、世界トップシェアを誇ります。国内に複数の工場があり、インドネシア、タイ、ベトナムで生産・販売をし、ほかにアメリカ、インド、韓国、中国でも合弁会社を通じて生産・販売しています。電子部品事業では、特にスマートフォンや自動車向けのFPCを生産・販売をしています。
 当社の最大の強みはゴムの配合技術で、特性を出すことはもちろん、生産性まで考慮した配合設計が可能です。配合だけではなく、ゴムの混練は95%以上自社内で賄っています。配合技術と混練技術の両技術を併せ持つメリットは大きいと感じています。

──最近、力を入れている開発分野は。

技術本部 材料技術部の深澤清文部長

技術本部 材料技術部の深澤清文部長

深澤 当社の最大の市場は自動車分野です。従来のエンジンを動力とする車では、エンジンシールやベアリングシールなど回転する摺動部の抵抗(摩擦係数)を下げる技術に注力しています。自動車メーカーは燃費を下げるためにオイルの低粘度化を進めており、それに対応するシールの開発も推進しています。ゴム材料だけではなく、樹脂製のシールリングにもそういった機能を付与しています。また配合だけでなくコーティングを表面に施し抵抗を下げている製品もあります。
 一方、EV化で想定されるニーズとしては、発生した熱を逃がして電子基板を守るための放熱用のゴム材料や、エンジン音がなくなった静かな車内でモーター音などを抑える防音・防振用ゴム材料などです。
 また、EVではアルミ部品が多くなるので、錆びを防ぐ技術にも需要があると見て、シールと接触しているアルミ面が錆びないようにする技術の開発もしています。ほかにFCV向けのシール部材なども開発しています。
 こうした製品は当社が独自にお客様に提案しており、放熱用の熱伝導ゴムなどは既に引き合いをいただいています。

──新分野向けの開発の流れを教えてください。
深澤 将来を睨んだ基礎技術分野については技術研究部で研究を行っています。一方、新規市場におけるニーズはNB(ニュービジネス)開発本部にて調査を行い、それらシーズ・ニーズをもとに材料技術部が新材料の検討を行い、最終的な実現性を生産事業部の製品設計担当者を中心に判断します。

──自動車以外で注力しているのは。
鈴木 介護・医療分野で利用される補助ロボットの部品を開発、製作しています。人間がものを動かそうとする際には脳から電気信号が出ますが、その信号を補助ロボットが受け取り、人間の動作をアシストする役目を担っています。当社ではロボット自体の開発は行っていませんが、外部の開発会社と協業して導電性のゴムなど、信号伝達部分の部品を製作しており、既に上市しています。ゴム製のため装着感も良く、繰り返し使用できるので、使いやすいと評判です。

技術の伝承という面で予想以上の成果

──製品を開発するうえで心がけていることは。

技術本部 材料技術部材料開発二課の鈴木昭寛主事補

技術本部 材料技術部材料開発二課の鈴木昭寛主事補

深澤 お客様の要求に合った製品の設計、機能の追求、それらを実現するための材料の開発を心がけています。
 環境にも考慮する必要があります。当社では、規制対象物質の情報を配合管理システムに入力し、配合設計時にその物質が使われているかどうかを確認できるようにしています。また、グローバル展開を行う以上、諸外国の厳しい環境規制にも対応していかなければなりません。誤って規制対象物質を使用することのないよう、常にアンテナを張っています。
鈴木 開発依頼を受けたら、まずは特許を確認し、抵触しないよう細心の注意を払っています。また、自社の技術は特許出願をするようにしています。特許は公開されるため、戦略的に出願するよう心がけています。

──技術者や研究者の育成で工夫している点は。
深澤 今、当社では世代交代の時期を迎えています。シール部品などでは過去の配合に基づいているものもあるのですが、当時の配合の考え方や開発経緯がわからなくなってしまっていることがあります。新製品を作る際にも、旧製品のコンセプトを理解しておくことは重要です。そこで材料技術部の部員に、昔の製品の開発経緯やデータなどを、月に1回調べて発表してもらうようにしました。発表を聞く側が学べるのはもちろん、発表する側もきちんと調べて発表するため、貴重な学習の場になっています。この発表会は、ベテラン社員が内容に対する意見や開発当時の状況などを伝える機会にもなっており、技術の伝承という面でも予想以上の成果を上げています。
 また、配合設計担当者には、できるだけ混練の現場を見るように促しています。機能を出すために入れたものが、製品化の際に不利に働くこともあります。自分が設計した製品が作られる現場を見ることはモチベーションの向上にもつながりますし、現場と直接コミュニケーションを取ることで連携が可能になり、よい製品が早くできるというメリットもあります。
 個々のグローバルに対する意識を高めてもらうことも大切です。海外の技術者を招いて交流を図ったり、海外研修制度を利用したりして、海外での困りごとにも対応できる人材の育成に努めています。

──技術者や研究者の働く環境について。

鈴木 湘南開発センターでは、企画、材料開発、生産設備開発などの部署が同じフロアに入っており、アイデアを出し合いながら開発を進められる環境を整えています。
 混練設備や成形設備、分析装置や測定装置なども充実していて、他部署の設備や装置も自由に使うことができます。また、当社ではフレックスタイム制を導入しており、設備を利用する時間帯が重なる際は、空いている時間に出社するなど各自で勤務時間をコントロールして効率化を図っています。

──将来の技術開発に向けて。
深澤 自動車分野においては、やはりEV化が当面の課題と言えます。自動運転化までを視野に入れて、対応を考えていかなければなりません。
 技術者も、お客様の要求に応えるだけでなく、こちらから発信できる体制を整えていく必要があります。情報収集力や発想力、創造力などを駆使して、新たな市場を開拓していきたいと考えています。

 

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。

 


 

深澤清文
技術本部 材料技術部 部長

鈴木昭寛
技術本部 材料技術部 材料開発二課 主事補

 


 

会社名 NOK㈱
代表者名 代表取締役社長 土居清志
所在地 〒108-0073
東京都港区三田3丁目13番12号三田MTビル
資本金 233億3500万円(2018年度末)
社員数 42,251名(連結/2018年度末)
3,419名(単体/2018年度末)