十川ゴム 人づくりにこだわり変化に対応

2018年10月26日

ゴムタイムス社

生産効率化をさらに推進
省人化・省力化設備の導入強化

十川社長

十川社長

 2025年の創立100周年を目前に控え、新たなステージを切った十川ゴムは、これまで磨きぬいた技術と柔軟な発想力を武器に、激変する経営環境を乗り越えようとしている。十川利男社長に今年度の足元の状況や製品開発に向けた取り組み、経営課題などについて聞いた。

 ◇足元の需要動向は。
 18年4~6月期は売上高、利益とも前期並みで推移し、7月も同じような流れが続いている。製品面では、建機向けホースは今期も好調が期待できる他、お客様との開発品も加速させたい。通期に関しては売上・利益とも前期を上回る計画を立てているが、原材料価格の上昇や運送費値上げなどが進んでいる。収益面は厳しくなることが予想されるが、生産効率化に取り組み増益につなげていきたい。

 ◇国内3工場の状況は。
 堺、奈良、徳島の3工場は多少のばらつきはあるものの、生産量は前年並みで推移している。ただ、要員不足や今夏は猛暑も加わり、各工場は本当に大変な環境で作業を行ってくれた。
 そのような状況のなかで、生産効率化に取り組みながら従業員の健康増進につなげるため、これまで本社部門並びに営業店で行っていた「ノー残業デー」を昨年末から工場を含めた全社で展開している。

 ◇中国拠点について。
 中国で事業展開する紹興十川橡胶有限公司の17年12月期は、売上高、利益とも前期比3割増で好調だった。製品では建機向けのホースが伸長。金型成形品も中国国内向けで伸びている。また、中国からベトナムなど東南アジアへ輸出するケースも少しずつ増えている。これにより、17年12月期の中国向けの販売は65%、日本向けの販売は35%となり、中国国内での販売を伸ばす施策が実りつつある。

 ◇原料高、物流費値上げへの対応は。
 タイト感があるフッ素やシリコーンに加え、CRも価格アップの話がある。また、ゴム原料とともに社外練りなどの加工コストも上がっている。
 さらに、物流費の値上げも頭の痛い問題となっている。このため、配送システムの見直しを始めており、これまで各工場の製品は堺市の物流センターに搬入していたが、徳島工場については各地に直送することも始めている。物流にかかるコストを極力減らすよう努めている。
 ただ、それでもコストはアップしており、重量物で厚物のゴム板についてはやむを得ずお客様に価格改定をお願いした。

 ◇設備投資について。
 今期は10億円程度を予定しており、投資額は前期に比べて増える見込みだ。老朽化する設備を中心に更新していく。このうち、徳島工場は敷地内に建屋を建設中で、秋ごろに竣工、来期初めに稼働する予定だ。また、設備も自動化、半自動化したものを増やして省人化・省力化を進めていきたい。

 ◇経営課題を挙げると。
 社会変化が激しいなかで、勝ち残るにはやはり人材育成が課題になる。社員一人ひとりのモチベーションを高める施策に注力している。本社で行っていた営業会議や品質会議を工場で実施したり、社員のお子さんや新入社員の両親を会社に招いて会社見学会などを開催している。こうした様子は社内のイントラネットに掲載している。小さなことを積み重ねて組織活性化を図り、2025年の創立100周年に社員一丸で向かっていきたいと考えている。

 


 

ホース
要素開発技術に注力

サンクイックホース

サンクイックホース

 ホース類の需要動向は、建機や食品産業向けが好調を維持しているが、これら好調分野もいずれ製品構成が移り変わり、減少する品目を上回る新規立ち上がり製品を確保する必要がある。このため、同社ではすぐに販売につながる製品開発や将来を見据えた要素技術開発を進めている。

 現在、同社が進めている主な開発テーマとしては、土木関係の「サンクイックホース」や高温油用ホース「HKシリーズ」のラインアップ拡充、燃料電池業界・EV業界向け製品の開発などだ。

 サンクイックホースでは、大都市部での掘削工事での使用を見据え、耐摩耗用シリーズとして75A(4MPa)をラインアップに追加した。大都市部の掘削工事では、大深度化と工期短縮を目的に、コンパクトな曲げ性能、配管の大口径化、吐出圧力の上昇が求められているが、これら要求に応えた製品である。

 高温油用HKシリーズでは、建機や産業機械のエンジンにおけるオイルリモート配管およびオイルクーラー配管で100℃以上での高温油領域(150℃)に対応する、油圧ハイドロリックホースとしてラインアップの拡充を図っている。

 さらに、家庭用燃料電池やEV関連部品、耐熱ゴム・樹脂部品の要求には、コストを意識しながら適切な材料・形状の提案を行っている。

 この他、ホース外面の耐摩耗性向上配合や自動車配管用高耐熱ホースなどの研究に取り組んでおり、今後も新機能や特長を持った製品を開発していく方針だ。

 


 

ゴムシート
塩ビ製放射線遮蔽シートを拡充

塩ビ製放射線遮蔽材

塩ビ製放射線遮蔽材

 シート事業では、さらに製品競争力を持つ特殊品の情報収集とその新規開発に力を入れている。

 まず、放射線遮蔽シートでは従来のゴム素材に加え、溶着や接着が可能な素材として塩ビ素材のシート状製品もラインアップに加えた。

 放熱シートは、通常ゴムは熱を通しにくいが、同社独自の配合技術によって熱伝導率を飛躍的に高めている。これによりこれまで両立が困難だった高熱伝導と電気絶縁性を兼ね備え、目的に応じた形状設計が可能となった。ベースにシリコーンゴムを主原料としているが、シロキサンの残存量が少ないため、精密機器などにも使用可能。電子機器などの小型化・省スペース化に伴い、コンデンサなどの基盤冷却用途として注目されている。

 熱膨張シートは火災などの熱により膨張し、固化することで火災の延焼防止用として活用されている。低硬度シリコーンシート、低硬度フッ素ゴムシートなど、その素材の利点を生かしながら低硬度化することで、形状追従性によるシール力の向上、パッキンとしての締め付け時などの反力低減、施工性の向上が期待できるようになった。

 低発煙難燃性ゴムシートは、鉄道車両用途として新たに欧州統一規格(EN45545―2R22適合品)としてLS―200を上市した。欧州各国では従来の独自規格からEN規格に統一されるため、車両に限らず、船舶などの室内および建材など、火災時に安全が要求される用途をターゲットとした拡販を目指す。

 製品開発に対する取り組みではこれまでのノウハウや新技術の複合化に加え、現場・現物に密着したもの作りを心掛け、レスポンスの向上にも取り組み、さらなる新機能や特長を持った製品開発にまい進していく考えだ。

 また、環境対応にも全社挙げて積極的に取り組んでいる。ゴムシートではカタログ掲載する全製品で既に改正RoHS指令(RoHS2)、REACH規制対応製品として製造している。また改正RoHS指令(RoHS2)は分析データによるエビデンスも順次準備を進めており、ホームページからのダウンロードサービスを行っている。

 


 

十川ゴムの18年3月期
売上高は前期並み

 18年3月期を振り返ると、土木・建設機械や医療機器向けのホースをはじめ、多くの分野で販売が好調だったが、自動車やガス産業向けの販売が伸び悩んだ。また、原材料高や運送費の値上げなどが影響し、「コスト環境は一段と厳しくなっている」(十川利男社長)。

 セグメント別では、ホース類のゴムホースは土木・建機向けや自動車用の燃料ホース、食品機械向けのシリコーンホースなどの販売が大きく増加し、ホース類の売上高は62億1700万円で同5・2%増となった。

 ゴム工業用品類では、型物製品は医療機器向けが増加したのに対し、ガス向け、自動車向けが減少し減収。また、押出成形品は食品機械向けのシリコーンチューブ類などが伸長。

 ゴムシートは特殊ゴムシートの販売は伸びたが、汎用品は伸び悩んだため、全体では前年並みとなり、ゴム工業用品類の売上高は71億8700万円で同7・3%減となった。

十川ゴムの18年3月期

 


 

HPをリニューアル
モバイル対応充実図る

慰霊祭の様子

慰霊祭の様子

 同社は今年1月、ホームページをリニューアルした。近年のモバイル化に対応するため、スマートフォンやタブレット端末でも見やすくし、スマホなどモバイル機器でもシート条件検索や新製品情報閲覧、たわみ量・荷重計算ツールによるゴム材料選定計算、各種証明書や取扱説明書などが、すぐに見たり取り込んだりできるようになった。

 また、同社の不変の想いである「人を大切に―」をさらに実践するため、採用情報を充実させたほか、十川ゴム便りを新設した。

 採用情報のページには、「社長メッセージ」「仕事を知る」「十川ゴムを知る」「募集要項」などのコンテンツがあり、「仕事を知る」では、工場や営業店に勤務する若手社員に仕事のやりがいなどをインタビュー。同社の魅力がよりわかる構成になっている。

 また、新設の「十川ゴム便り」では、今年4月の入社式を始め、今日の同社の礎を築き発展に貢献された物故者に対し、3年に1度開催している「物故者慰霊祭」などの様子を紹介している。なお、今年の慰霊祭は慰霊碑のある堺工場で5月15日、徳島工場で5月29日に開催され、慰霊祭終了後には十川社長をはじめ同社役員と遺族の方とで懇親会が行われた。

 


 

「三方よし」を経営理念に
自分よし、相手よし、他人よし

 同社は創業時より、自己を活かし、相手を良くし、多くの第三者に益をもたらす「三方よし」の精神を経営理念とした事業活動を展開してきた。

 同社では、この「三方よし」という経営理念は、過去も、現在も、そして未来においても変わることなく大切に継承されるものだとしている。

 「三方よし」の核となるのは『人』である。同社は社内、社外を問わず、きめ細やかな心配りによる心通うコミュニケーションを行い、不変の想いである「人を大切に―」を実践している。

 また、経営環境が激しく変化する状況において、顧客に選ばれる存在価値のある企業であることが、永続できる大きな条件であると考えている。

 同社は、顧客から求められるものをいち早く捉え、情報を共有化することで、スピーディーに対応する体制への変革を図っていく。

 


 

《沿革》

1925(大正14年5月)
大阪市浪速区大国町に十川ゴム製造所を創立

1929(昭和4年7月)
合名会社十川ゴム製造所を設立、大阪市西区に営業所を開設

1943(昭和18年7月)
徳島工場新設(徳島県阿波郡阿波町)

1949(昭和24年4月)
東京支店を開設(従来出張所)

1956(昭和31年9月)
十川ゴム株式会社設立

1959(昭和34年4月)
合名会社解散し株式会社十川ゴム製造所を設立

1961(昭和36年9月)
堺工場新設(大阪府堺市上之)

1966(昭和41年4月)
日本工業ゴム株式会社設立

1967(昭和42年4月)
奈良工場新設(奈良県五條市三在町)

1970(昭和45年5月)
本社を大阪市西区立売堀1丁目に移転

1987(昭和62年3月)
北陸営業所を開設

1990(平成2年3月)
東京支社を開設(従来支店)、福岡支店を開設(従来出張所)、札幌営業所を開設(従来出張所)

1995(平成7年4月)
日本工業ゴム株式会社、十川ゴム株式会社と合併し、新商号を株式会社十川ゴムとして発足
本社を大阪市西区南堀江4丁目に移転

2000(平成12年5月)
ISO9001認証取得

2005(平成17年4月)
中国浙江省に紹興十川橡有限公司を設立

2012(平成24年11月)
ISO14001全社統合認証取得

2014(平成26年10月)
四国(徳島)、北九州(小倉)に出張所を開設

 

 

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