帝人 放射線を遮蔽するアラミド製品を開発

2013年04月26日

ゴムタイムス社

 帝人は24日、放射線(X線およびγ線)を遮蔽するアラミド繊維織物およびアラミドペーパーを開発したと発表した。
 5月上旬よりサンプル提供を開始し、放射線量の高い場所で使用される防護衣料やシート材などの用途を中心に市場開拓を進めていくとしている。
 これらの製品は、同社グループが製造・販売するパラ系アラミド繊維「テクノーラ」および「トワロン」に、優れた放射線遮蔽性を有するタングステンの粒子をブレンドしたもの。レアメタルの一種であるタングステンは、金属の中で最も融点が高く(3380℃)、高比重で、重量は鉄の2・5倍。照明やОA機器に広く使われているほか、鉛に匹敵する優れた放射線遮蔽性があることから、最近では放射線遮蔽材としても使用されている。一般に高比重の金属を繊維に配合して製糸するのは困難とされているが、同社は、「テクノーラ」および「トワロン」の紡糸法や素材特有の物性を活かすことにより、これを実現した。
 同社グループは、高強力のパラ系アラミド繊維「トワロン」および「テクノーラ」と、長期耐熱性や難燃性に優れるメタ系アラミド繊維「コーネックス」を併せ持ち、警察、消防、製造現場などの安全を支える「ライフプロテクション」分野において幅広いソリューションを提供している。東日本大震災以降、復興作業に携わる作業員の安全を支えるソリューションとして、アラミド繊維をベースとした放射線遮蔽素材の開発に取り組んできた。
 放射線を遮蔽するためには、一般的に比較的安価で遮蔽能力に優れる鉛、および鉛を含む材料が使用されているが、地球環境に対する影響懸念から、鉛の使用については世界的に規制の動きがある。こうした中、最近では、人体や環境への影響が比較的低いタングステンが、鉛の代替として放射線遮蔽用途に使用されている。
 タングステンを用いた放射線遮蔽素材としては、繊維状やシート状の加工製品のほか、樹脂やゴムにタングステンを配合したハイブリッド素材などがある。しかし、一般的に、タングステンのような高比重の金属を繊維に配合して製糸するのは難しいため、タングステンを含む繊維素材は実現が困難とされ、さらに、繊維に高比重の金属を高濃度で配合すると、強度や弾性率などの繊維固有の機械的特性が損なわれることもあるため実用されていない。同社は、自社の2種類のパラ系アラミド繊維にタングステンの粒子を配合することを可能にした。
「テクノーラ」については、独自の紡糸技術により、繊維中にタングステンを練り込んだ。同社がこれまで培ってきたポリマー技術と紡糸技術を駆使して、繊維内にタングステンを均一に配合することができる。
「トワロン」については、元来フィブリル化(繊維内部の小繊維が摩擦作用で表面に現れ毛羽立つこと)しやすいことから、パルプ形状での使用が可能。パルプ形状の同繊維は、異形状の素材を保持する力に優れており、この特性を活かすことで、タングステン粒子との高い接着性を実現した。さらに、シート化技術を組み合わせることで、タングステンを均一に分散させたペーパーを生成することもできる。
 こうしたことにより、放射線遮蔽性を実現した「テクノーラ」織物および「トワロン」ペーパーを開発した。アラミド繊維固有の優れた原糸強度により、タングステンのような高比重の金属を高濃度で含有しながら、ポリエステルなどの汎用繊維を上回る強度を発揮。配合するタングステンの量に応じた放射線遮蔽率を実現する。織物およびペーパーであることから、柔軟性や加工性に優れ、鉛板やコンクリートでは実現できなかったフレキシブルな形状での利用が可能。
 また、一般にタングステンを配合することで素材元来の難燃性や耐切創性が向上するとされており、タングステンを配合した「テクノーラ」織物は、「テクノーラ」が元来有する耐切創性や難燃性を上回る性能を発揮する。その特徴を活かし、鋭利な瓦礫や刃物を扱う作業や、高温体を扱う作業に使用する資材や防護服などへの用途展開が期待できる。
「トワロン」ペーパーは、最大90wt%(重量パーセント)という高濃度のタングステンを保持できるため、薄くても高い遮蔽性能を有している。積層や成型も容易であることから、耐熱ガスケットをはじめ、耐熱シート材や補強材など、耐熱性が要求される幅広い分野での使用が期待される。同社はこれらの開発製品について、5月上旬よりサンプル提供を開始し、医療や震災復興、放射線実験などの分野に向けて、放射線量の高い場所で使用される防護衣料やシート材を中心とした用途への展開を目指すとしている。
 アラミド繊維は、一般的に高強力、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性などの特性を持つ高機能繊維の1つで、パラ系とメタ系の2種類に大別される。同社グループは、この異なる2種類のアラミド繊維を事業化している世界屈指のメーカー。パラ系アラミド繊維は、特に強度、防弾・防刃性などに優れ、主として防護衣料、自動車のブレーキパッドなどの摩擦材やタイヤの補強材、光ファイバーケーブルの補強材などに使われており、年率7%から9%の市場成長が見込まれている。同社グループは、オランダ・エメン市で生産する「トワロン」と、愛媛県松山市で生産する「テクノーラ」で世界市場の約2分の1を占める。同社が山口県岩国市で生産するメタ系アラミド繊維「コーネックス」は、長期耐熱性や難燃性に優れ、耐熱フィルターやゴムベルト・ホースの補強材などの産業資材、消防服などのユニフォームに使われている。

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